「家族」について何か真面目に語るのに、必読書となる本である。個人的には山田昌弘の『パラサイト・シングルの時代』以降、最もびっくりした家族本であった。昨今の若い母親(1960年以後生れ)の食卓が激変している(コンビニ弁当・菓子パン・カップめん等が「ふつう」の食事を侵食)ので、じゃあ、彼女らを育てた母親世代はどんな人たちなのだろう、と深いインタビュー調査をしてみたところ、どうも彼女たちが、戦後社会の変動にあわせながら、いや、むしろ、ひとりひとりの選択により社会を自ら変動させながら、日本の「家族」のかたちを激変させていったようだ、という真実が明らかになる。日本史上、他に類を見ない<現代家族>の成立事情が、著者の「実証考察学」により解読される。<BR>戦争前後の「価値の大転換」を経験し、急激な都市化により新たな家庭をつくり始めた彼女たちは、従来の、親からの知識やマナーの教え込みから解放され、本やテレビ番組から料理や子育てを学んだ。新たに登場したレトルト・インスタント食品を活用し、レジャー産業に余暇を費やすという「楽」を知った。子供の望みをできるだけかなえてあげようと思い、彼らの「個性」を育むことに価値を見出し始めた。「教える」「伝える」という伝統の厳しさを捨て、「してあげる」という子供中心主義をとったのである。かくして、たとえばお正月などの年中行事の「しきたり」を守るよりも、それぞれの家族流の「お楽しみ」を追求することを第一とするようになったわけである。<BR>戦後社会の環境が、そこに生きる人々の願いを少しづつ吸収しながら、それまで農村社会で生きてきた「伝統」(これも、一枚岩ではないが)を切断し、いまの家族のあり方や関係を、創造したのである。その変化をみていると、私たちはとんでもなく未知の世界・時代に突入しているのだなあ、という感慨がある。
現代の食生活の乱れの原因を聞かれて、明快に答えられる人はいないだろう。<BR> 著者の地道な定性調査が、それを筋道立てて解き明かす。<BR> 前著「変わる家族 変わる食卓」は、1960年以降に生まれた人々の食生活行動が、それ以前の世代に較べていかに特異であり、それが以降の世代の常態ともなっていることを示した。本書は、なぜ1960年以降に生まれた人々の食生活行動が変わったかを、その親までたどって解明する。<BR> 戦中と戦後まもなくの食糧難で、次世代に引き継ぐべき家庭の食卓の姿をもともと持たない彼らの親は、敗戦を契機にガラリと変わった教育を背景に価値観を大きく変えた、特別な世代だったのである。自ら望んで団地生活を始め、ちゃぶ台をダイニングテーブルに変えた親たちは、新たなメニューをどんどん食卓に取り入れ、その娘たちは、食の情報は家庭の外から仕入れるものだという考えを受け継いでいく。外からの情報に左右されやすい娘たちの行動は、親から受け継いだものだったのである。<BR> ほんの少し前のことなのに、昔はこうだったに違いないと思い込んでいることがいかに多いことかということを知らせてくれる本である。