著者の言葉に「幸せな人生をおくっている探偵役」が「追いかける事件は、とてもささやかなものになりました」とあります。事件そのものがささやかであっても、そこに生身の人間が何人か関わっている以上、内容はどうにも重いものになっています。前半は「ふーん」くらいのノリで読んでいたのですが、後半俄然目が離せなくなりました。<BR>探偵役の主人公は、傍目にも何不自由ない裕福な身分。妻は一流財界人の娘。かわいい子にも恵まれている。でも、そこに安閑と乗っかっていられるほどの度胸はないし、自分なりに捨ててきたものもあれば痛みを感じていることもいっぱいある。人の痛みを他人事にできない心根も持っている。<BR>でも追いつめられた人はなぜか皆「あなたなんかには分からないでしょうよ、私の気持ちはね。私はこんなに傷ついてきたのに!」と、刃を向ける。自分は弱いんだという気持ちを武器にして。主人公は「自分はいつまで、何不自由ないことを責められなければならないのか」と心の底で泣いているでしょう。おそらく、生涯背負わなければならないのだ、と知っていても。<BR>ささやかな事件だったけど、登場人物が背負っていた来し方は、とびきり重かったです。
大財閥会長の運転手を真面目に勤めてきた梶田氏が、縁もゆかりもない土地で自転車に轢き逃げされ帰らぬ人になってしまった。残された歳の離れた家族想いだが、性格は両極端な美人姉妹。父の無念を晴らすため本を出版することを計画。その手助けを頼まれた財閥の婿養子。梶田氏の過去を探していくうちに家族の汚点があぶりだされて、最後は予想通りだった。<P>細かい矛盾がいくつかはありますが、一気に読ませてくれるのはさすがに宮部ワールドならでは。ただ登場人物に共感できない部分が多々あり、しつこいくらいの表現が後味をくどくしている。
この作品では、今多コンツェルン会長の腹違いの娘婿、杉村三郎が会長の運転手だった梶田の死の原因を突き止めていく。<BR>犯人と被害者の娘たち。それぞれの心の葛藤がきめ細かく描かれています。でも、姉妹の心の中に潜んでいた本当の犯人は別のところに隠れていた。またしても宮部トリックにはまりました。<BR> 生活環境といい、職場のポジションといいこの杉村氏、探偵家業に向いているんじゃない?と思った僕は考え過ぎでしょうか。次の登場を期待しています。