村上龍の小説は、その類稀な想像力のせいか、膨らむだけ膨らませて、結末があやふやになってしまう傾向があった。しかし、本書はちがう。あの『昭和歌謡大全集』の生き残りたちが、驚くべき方法で、敵に立ち向かう。そして結末には、間違いなくカタルシスがある。<P>何よりもディティールのすさまじさ。バルザックのリアリズムを髣髴させる、圧倒的な描写力。詳しすぎるほどのディティールに、上巻では正直、倦むこともあったが、下巻まで読み進めた読者は、物語のうねりに飲み込まれ、ページを繰る手をとめることができまい。<P>系統としては『コインロッカー・ベイビーズ』にはじまり、『五分後の世界』『ヒュウガ・ウィルス』に連なるもの。この系列の村上作品のファンは、本書にその至高の姿を見出すだろう。もちろん村上作品を未読の人にも、自信を持って推薦できる。本書が村上龍の代表作となることは、もはや疑いようもない。
エンタテイメントとしても面白く読み出すと止まらない。<BR>通常そのテの小説はモラルをもとにした善悪とか正誤とかをベースに読者を感情移入させるものだが、<BR>この作品は北朝鮮の兵士や壊れた少年達という、およそ感情移入が出来ない登場人物たちばかりなのに<BR>彼らの過去や現在の体験が、同情でも共感でもなくただただ胸に迫ってくる。そこが違う。<P>絶対に映画化だけは許可しないでほしい!<BR>北朝鮮兵士にアウトロー少年達が力を合わせて戦いを挑み、<BR>それに兵士とアナウンサーのロマンスが絡むとかいう単純映画になるに決まってるから。
■すべての村上龍作品を読んでいるわけではないのですが、いままでのさまざまな作品群を統合し、総括した作品といえそうです(うかつにも下巻後半の2ヶ所で涙してしまいました)。たしかに、上巻は「お勉強」会のような部分もありますが、それは下巻に入ると払拭。とくに下巻後半、「美しい時間」の60ページ、そしてそれ以降は、ただただ圧巻。「詳細に書く」ことがここまでリアリティーを生み、本来の意味でのドラマを創り上げていきます。セリーヌやジョサ、アレナスなどの最高の作品に匹敵するのではないでしょうか。