本書のストーリーは、要約すれば以下のようなものだ。監査法人として出発したアーサーアンダーセン社は、当初保守的な監査で高い評判を得、その後の会社の成長の時代にも、パートナーの結束と、創立以来の共有文化の維持により、健全成長を続けたが、監査法人の間の競争の激化などにより監査業務収入が伸び悩む一方、コンサルティング業務が会社の収益の柱となっていった。他方、こうした中核業務の転換は、会社の文化の変質をもたらし、監査業務においても、保守性を失っていき、エンロンの不適切な経理を見逃しただけでなく、信頼が最大の競争力である監査法人としての自殺行為である証拠を隠滅するなど悪質な行為に走り、結果、会社が消滅した。<P> こうしてみると、会社がつぶれる原因は、一朝一夕に、あるいは、少数の人間の行為によりできるものでなく、会社をめぐる時代、外部環境の変化と、これへの対応の間違いなど、多くの複雑な要素により形成されるものであることがよく分かる。裁判中であるので、完全に赤裸々には書かれてはいないものの、内容は良く理解できる好著である。なお、翻訳は日本語としては分かりやすいものの、直訳に過ぎるところ、意味不明なところも散見される。裁判中でもあるので、忠実に訳したとのことであるが、もう少しやりようがあったのでは、という気もする。
名のある会社、(一見)業績の良い会社でも、一瞬にしてダメになるというよい(?)見本ではないでしょうか。<P>仕事柄、他社の事例をよく聞かれることがあるので、その際に、「悪い例」として使わせてもらっています。(外国の会社だし、もうつぶれてしまって無いので、クレームをつけられることもないし・・・)<P>ただ、元社員の暴露本なので、生々しい話はそれなりに興味深く読めますが、そこからどのような普遍的な思想や考え方が導かれるかについての突っ込みはやや甘いのではないでしょうか。
この本は、ダイナミックに発展するアメリカ・ビジネスのいわば裏方としての監査法人が関係した、あまり知られていないが恐ろしく巨大な問題を浮き彫りにしてくれました。85000人の従業員の会社が全世界で一挙に消滅するのは日本の山一や長銀の比ではなく、未曾有のことです。しかし、その裏には多くの積み上げがあったことがよくわかります。内部の人達の冷静にしておさえた、客観的な事実の提供は、暴露本のような赤裸々な感情論がないだけに、淡々と読めるし、かえって、悲哀を憶えました。わかりやすい日本語訳になっていて、会計に関係しない人にも興味を持って読める、秀逸なノンフィクション・タイトルと感じました。