昭和17年。医大合格を目指して上京、田町の沖電気の軍用通信機工場で働く苦学生=山田誠也。年表や歴史書からは決して表出せぬ、同時代人にしか語れない市井の雰囲気、戦争の実像を、20歳の文学青年の怜悧な筆が目撃、活写して行く。無線史研究上も必見。<P>※原著は1973年刊。戦後編については著者没後順次公開中。
本書は昭和17~19年の山田風太郎の日記です。本書を読むと新鮮な驚きを感じます。戦争中のイメージが変わること必至です。まず戦争中日本人全体が舞い上がっていて、ろくに物が言えない世の中だったわけじゃないと気付きます。本書を読んでいると当時の世相が透けて見えてきます。現在のアメリカのような雰囲気を私は感じました。私の想像を裏切って、はるかに自由な精神で人々は生きていたんだと実感しました。要するにごく普通に生きていたということです、紛れもなく同じ日本人なのだなと感じました。<P> そしてそういうことを実感できるのは山田風太郎の洞察力です。何度ビックリしたか分かりません。戦争の真っ只中にあって、しかも20歳という年齢で、現在から見たかのような情勢判断にはビックリします。(情報統制があったのでそこは当然割り引きますが) 戦前特有の愛国心以外は共感もしくはおそれいること必至です。<P> 当時の社会からは浮いた存在であった山田風太郎が客観的に社会を眺め、それを日記に記しているので、それを読む我々に当時の世相を教えてくれるのだと思います。戦争中の日本人を知りたい人におすすめの一冊です。
この本を読み、当時の一般的な日本人の気持ちが初めてわかったような気がした。日本国民全員が全員、熱狂的に日本の正当さと勝利を信じていたわけではないのだ。今までその点に疑問を抱いていたがやっと少し理解した。冷静に、素直でいられた人はみんなちゃんと疑問を抱きながら過ごしていたのだ。だからと言って戦争に反対するわけでもなく、間違っていると感じても国が戦争をしているのだからやはり勝ちたい、死んでもいい、そう考えていたのかと驚く。日本人の良いところと悪いところが表れたのだとも思う。坂口安吾が日本人に対して『嘘をつけ嘘をつけ!』と怒りを表したが、それとはまた違う本当の日本人がここには書かれている。評価はつけ難い。これは本当に純粋な『日記』だと思うから。