これ以前に刊行された「知的武装講座」で沼上先生が書いていた部分の加筆修正版。大幅に書き加えられたものもあり、著者の深い思考を、より体感できるつくりになっている。<P>まえがきに書かれている著者の問題意識に共感できたら、迷わず「買い」である。引用すると、「日本の組織が劣化していくことがよくあるのを知ってるけれども、日本の組織の本質的な部分(=コア人材の長期雇用を前提とすること)を維持しながら、どうにかこうにかダメにならずに経営していくにはどうしたらいいのか」という問題意識である。<P>基本を大事にすること、深い思考を求めること、これらが著者の基本スタンスだと思う。流行の経営コトバを追ったり、常識を所与と考えたりするのではなく、常に基本を意識し、その上で深い思考を貫くというスタンス。<P>だからこそ、安易に「解答」を提示しない。この本にも「解答」があるわけではないので、安直に解答を求める読者には、物足りない一冊になるだろう。しかし、深い思考を支援する考え方がちりばめられている。常に論理的で深い思考を求める読者にとっては、目からウロコな部分が非常に多いと思う。<P>例えば、「マズローの欲求階層理論」の誤用。現在の豊かな日本では、殆どの日本人が「自己実現」より下位の欲求は満たされていて、自己実現欲求を追っていると思われがちだ。しかし、よくよく考えてみると、それより下位の「所属・愛情欲求」や「承認・尊厳欲求」は満たされていないと気づく。仲間から大事にされたり、自分の仕事が上司に認められることがうれしく感じるのであればは、まだまだ満たされていない欲求であるのだ。そこで、組織設計者はいかに考えるべきか…。<P>そのほかにも、「フリーライダーの問題」や「キツネの権力」、「厄介者の権力」などなど、自分が所属している組織を思い浮かべながら読むと、ハッとする部分があるはずだ。自分の組織は何かおかしいと思っている方、そして深い思考に喜びを感じる方には、ぜひともオススメの一冊である。ただ、前述の「知的戦略講座」をお持ちの方は、あまり新鮮味がないかもしれない。
最近、組織論に関する本をいくつか読んできた。それは「こういう種類の組織構造があって」<BR>といった話が主だった。 それはそれでためになるのだが、今ひとつ組織を語る上での本質的な<BR>部分が語られていないような気がしてきた。自分がいた組織の何が問題だったのかというのが、<BR>そういった話を総合しても全く見えてこなかった。<P> この本では、組織の健全性のために、本質的に必要なものと、排除すべきものを明確に示してある。<BR>「フリーライダー」、「厄介者と恐い大人」、「キツネの権力」「ヒマな秀才」など、組織の問題を<BR>考える重要なパラダイムを提供してくれる。<BR> この本を読んで、初めて「そうか! そこが問題だったんだ!」というのが初めて見えた。<BR>それは、ほとんどの組織が気付かないまま抱えてる問題だと思う。<BR> 組織に悩んでいるには是非お勧めしたい一冊だ。
「ザ・ゴール」を読んで、この考え方をホワイト・カラーの仕事に応用できまいか。誰か、しっかりとそのような考え方を展開する経営学のアカデミズムの方がいないだろうか。<P>漠然と考えていたが、この一冊の中で、著者はしっかりとした結果を出せるミドルの時間をボトルネック、稀少財として、業務設計、組織設計をする。ということをさりげなく提案している。この一点だけでも、この一冊は、経営実務に携わる人にとって、価値ある一冊。また、何度も読み返すべき一冊ということになる。<P>また、カタカナ組織論に浮かれる前に、まず、しっかりとした「官僚制」を組織基盤として確立するべき。とも説いている。<P>企業組織のあり方というものは、誰でも一家言もつことができる。誰でも現状を批判し、改革案㡊??異を唱えることができる。経営者も迷いがちにもなる。が、この一冊が示すポイントをチェックするだけで、まあ、大丈夫というところなのか、相当まずいのかがわかる。<P>これからも出てきそうなカタカナ経営組織論に振り回される前に、あるいは、心動いた時に、この一冊に戻るようにしたい。読みやすく、おもしろくもある。奇を衒っていない。小さいながら良書である。