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靖国問題 ( 高橋 哲哉 )

とかく迷走しがちな「靖国問題」であるが、その理由は、きわめて複雑な論点の絡み合いを整理しないままに議論しようとするからである。そこで過度に単純化された主張や没論理な感情論が幅を利かせだすと、これはもうどうにも手のつけようがなくなってしまう。<P>著者は、こうした「靖国問題」を、感情・歴史認識・宗教・文化と個々に章を設けて分析する。その分析の手際は鮮やかというほかない。葦津珍彦・江藤淳・菱木政晴・ジョージ=モッセ・子安宣邦といった重要な論者の議論にも広く目を配り、追悼と顕彰との関係やA級戦犯合祀・「神社非宗教」論・伝統と靖国との関係など、その錯綜を丁寧に解きほぐしている。国立追悼施設の問題も含め、現時点における「靖国問題」の一つの到達点として、この問題に関心を持つすべての人―外国人・「靖国派」の人々も含め―が参照するに値する一冊である。<P>靖国神社遊就館の売店にも置けばいいと思うのだが…高橋哲哉の本なんか置かないだろうなきっと(笑)。<P>ただ、気になるのは、「戦争責任論」が「満州事変」以前の戦争を見落としがちであることを指摘しながら、そこでの“遡及”が日清戦争や「台湾征討」止まりな点である。靖国問題の原点は戊辰戦争や西南戦争に代表される内戦期であり、そうした東京招魂社時代の分析は欠かせないはずなのであるが、この時期の諸問題が江藤淳へのツッコミとしてしか使われていない。この点に関しては、個人的に「読み手に残された課題」として読んでおきたい。

「国の為に命を捧げた人々を慰霊する、首相の靖国参拝がなぜいけないのか?」という素朴な疑問をもつ人は多い。著者は、そうした疑問に誠実に向き合い、靖国問題を、我々の感情、歴史認識、宗教、国家という多面的な視点から、深いレベルで捉え直す。靖国神社は1869年に東京招魂社として設立され、敗戦まで一貫して陸軍海軍など軍と一体の関係にあった。靖国神社は、明治維新や西南戦争など内戦を含む戦争で死亡した、軍人や兵士とその関係者を「神」として祭る(現在も同じ)。戦争で死亡した民間人は一切考慮されない。兵士の死を「悲しみ」として追悼するのではなく、「名誉ある戦死」として「顕彰する」ことにその本質があるからだ。<P>しかし、これは我々が戦争と向き合い、死者を追悼する方法として、望ましいやり方ではない。日本の中世・近世には、平重盛、足利尊氏、北条氏時など「敵味方の死者を共に供養する」「怨親平等の弔い」があった。西洋にも、アキレウスのヘクトル供養、『アンティゴネ』の兄弟双方の埋葬など、戦争で倒れた敵味方をともに供養する習慣があった。それが変わったのは、近代の国民国家が国民を大量に戦争に動員し、自国民の死のみを「顕彰する」イデオロギーを必要としたからである。靖国神社はその典型的な例である。<P>しかし第二次大戦は、そうした近代国家の「総力戦」への反省を突きつけた。ナチスドイツの兵士の死者は、もはや「英霊」ではなく「犠牲者」として追悼されている。日本軍に殺されたアジア諸国の死者は莫大である。我々日本人が、戦争で死んだ日本人兵士を含めて真の慰霊を行うには、靖国方式ではなく、民間人や敵味方も含めて「戦争の悲しみを共有する」追悼が必要であると著者は説く。日本人の「非宗教性」という外見と靖国との結びつきなど、著者の分析は鋭く深い。

靖国に対する論理的批判としては面白いし説得力はあるが、目新しい点はそれほど多くない。<BR>また、アジアに対する認識不足は甚だしい。中国政府の動向に対しては分析が甘すぎる。中国は日本軍国主義の復活があり得ないことを知りながら外交政策を行っているのである。<BR>また個々の例でいえば、例えば、台湾の高金素梅氏が外省人の父親を持ち、政治的に親中派(台湾では少数派)であることは明記すべきだろう。<BR>筆者は日本という「比較的」自由な言論空間にいられることが、残念ながら日本という国家あってのことだということを理解していない(あるいは理解しようとしない。)。欧米しか知らない哲学者の限界だろう。<BR>脱軍事化などの夢物語で終わっているのが、本書の価値を大幅に引き下げて残念である。「日本軍国主義の復活」という妄想にとらわれているのが左翼知識人の悲しいところだ。

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