実証の部分は見事。「８月１５日というのは実際には終戦の日でもなんでもない。たんに玉音放送が流された日である」というのは、そこそこ有名な話ではあったが、著者は「８月１５日」がいかにして神話化されていったかを、ほとんど力業とでもいうべき方法で検証していく。さすが、今の日本でトップクラスのメディア史研究者である。<P> ただ、最後の提案の部分になるとやや切れ味が鈍る。歴史の授業で、「８月１５日に加えて９月２日についても教える」ことで歴史認識問題が解決できるなんていうのは幻想であろう。「歴史教育」自体の正当性が揺らぎ、それ自体が政治的駆け引きの場となっている今、「正しい歴史教育」によって「正しい歴史認識」が生まれるなどというナイーブな考えはもうとうに時代遅れである。結局はこの本の提案自体も、あまたある歴史に対する立場表明の一つにすぎないのだから。
なぜ8月15日が終戦記念日として認知されているのか、<BR>そのことを問い直した本。<P>新聞の書評欄で見つけ、大学生協で購入。<BR>生協ではほとんど残ってなかったので、結構売れ筋の本なのかもしれない。<P>史実としては、<BR>8月14日にポツダム宣言を受け入れ、<BR>8月15日に玉音放送があり、<BR>9月2日に降伏文書に調印<BR>という流れ。<P>つまり国際的には9月2日が終戦日であるのに、<BR>なぜ日本では8月15日があれほど注目され、<BR>9月2日は忘れ去られたのかを検証し、<BR>その理由としては、<BR>1963年5月14日に、「全国戦没者追悼式」を8月15日に行うことを閣議決定したことや、<BR>また、その他もろもろの8月15日に行われてきたメディアイベント（ラジオやテレビの終戦記念日を扱うもの）を取り上げている。<P>この閣議決定も戦後約20年たってからのものであるにもかかわらず、<BR>現在における8月15日=終戦記念日の意識を思うと、<BR>メディアの影響力、浸透性はすごいものだと思う。<P>人々の意識によって、終戦日の認識に差があるというのは面白い。<BR>例えば、広島では8月15日ではなくて8月6日のほうが重要視されるし、<BR>8月末からソビエトの攻撃を受けた北方領土の人々にとっては8月15日は全く終戦記念日といえるものではなく、<BR>沖縄の人々にとって終戦はいつなのか。<P>また、8月15日の玉音放送を伝える新聞記事に関する記述も面白い、<BR>玉音放送を聞いて、うなだれる人々の写真がたくさん掲載されたが、<BR>例えば、その中のひざをついてうなだれる子どもの写真は、<BR>この写真は玉音放送前に、カメラマンが要求したポーズを<BR>子どもが演じたものを撮影したものであるという、<BR>後にその被写体であった子どもたちが告白して、その事実が判明したという。<P>常識として根付いてしまったものも、改めて検証してみると、<BR>当たり前の部分が何の根拠もない事実であったりするということを、<BR>立証するところなどが面白かった。
マスコミや教育によってさまざまな定型的な意見が、頭の中に刷り込まれているのが現状ではないでしょうか。<P>はたして意識的に考えることができるでしょうか。物事を主体的にかんがえることができるでしょうか。問題のありかを意識することができるでしょうか。共感する、反発するという次元で考えないで、自分自身で問題を直視することができるでしょうか。<P>先の大戦を通して各国の価値観、民族性の違いを超えて、問いかけられられている問題があると思います。<P>マスコミの持つ魔性、近代教育のもつ問題点についてはグルジェフ著「注目すべき人々との出会い」（まるくまーる社）でも指摘されています。参考となる著作です。
