やはり、従前のベンヤミン著作集に比べて訳もこなれている。そもそもベンヤミンは難しく、ドイツ人ですら「一旦、別のドイツ語に翻訳しないと読めない」と言われるほどである。その意味ではこの新訳は非常に評価できる。但し、アンソロジーの形になっている点で、選択から落ちている重要な論文があることが残念である。「ドイツ悲劇の根源」の序論「認識批判的序章」は、ベンヤミンの中核をなす思想が記述されており、これはぜひとも入れて欲しかった。いずれしろ、ベンヤミンを読むのであれば、是非手元に欲しい一冊である。
はっきり言って、最初のうち慣れるまではきわめてわかりにくい。それは、一つ一つの論文が「モンタージュ」のように並べられているからだ。そして、「複製技術時代」の論文を読んだとき、断片が一つの理念として現われてくる。<P> ギリシア以来、美においてはアウラ的な「礼拝価値」(仮象としての芸術)が優勢だった。しかし、近代以降の技術の発展がアウラを破壊し、「展示価値」(遊戯としての芸術)を際立たせる。ゲーテ、ボードレールは、異なった仕方で「礼拝価値」を取り戻そうとした。しかし、20世紀の写真や映画は「礼拝価値」を完全に破壊した。ここでベンヤミンの弁証法はこの危機を逆手に取り、技術を徹底的に普及させることを決意する。視覚的受容から触覚的受容へ、後進的なものを進歩的ものに。<BR> 現代社会における経験のあり方を探るためには、ぜひとも読んでおきたい好著であろう。