本書は、美の成立根拠を人間の主観的な心の在り方に還元する「近代主観主義的美学」に対して、美ではなく存在の真実が開示される場が芸術作品と考える「存在論的美学」を提示している。前者の立場に立つシラーやフロイトに対して、後者の立場を取るニーチェやハイデガーを平易に解説することで芸術哲学の教科書のような作りになっている。そのため「近代主観主義的美学」をなぜ退けるのか、という命題に関しては批判が甘いと思うが、二つの芸術観を対立させて論じる文章は、非常に明快であり、ハイデガー、ニーチェ、アリストテレスもしくはショーペンハウアーの芸術観が見事にまとまっている(原書にあたったことのある人にはそれがよく分かるだろう)。ちなみに芸術や哲学が「訳の分からぬもの」と考える人には特にお勧めする。
芸術学、つまり「芸術って何ですか」を巡る学問のうち、ドイツ観念論系の議論を中心にしたガイドブック。元々は東大での講義ノートだったらしい。<P> 特にハイデガー、ガダマー、カントについての記述が中心となっているが、引用注は細かいし、読解もあまりアクロバティックなものではないオーソドックスな線で手堅くまとめているし、最初から最後まで「芸術とは何か」という論点を外す事無く書いてあるので、読みやすいことこの上無い。カントの『判断力批判』、ハイデガー『芸術作品の根源』、ガダマー『真理と方法』をはじめて読む方には特に便利だろう。まずはこの本から入ればかなりの省エネになるはずである。評者も先にこちらを読めば良かったと下唇を噛みしめてしまった。<P> しかも文庫本でいくらでも手に入るし軽い。好き放題に書き込みも線引きもできるし、無くしてもすぐに新品が買えるのでどこにでも持ち歩ける。迷うこと無く買いでしょう。
大学で芸術学科を専攻しています。コースの一つに「芸術と哲学」というのがあり、プラトン、アリストテレス、ショウペンハウワー、ニーチェを主に読むということなので、それぞれの原作を読む前に、基本的な知識を得られればと期待して本を購入しました。内容自体は難しいものではないのですが、原作からの引用が多すぎるため日本語としてすらすら読むには困難でした。そのため、平易な言葉で原作を要約しているタイプの本を探している人にはあまりお勧めできません。