筑摩書房で行った10回くらいの講演を本にしたもの。<P>歴史家っていうのは、ほんとにたくさんの古文書を読む。すごいと思う。そもそも読みづらいし、何が書いてあるか分からないし、それに読んでみたらまじでクラップな落書きかもしれないしうそっぱちかもしれない。けど、網野さんはさらにそれを「よみなおす」。とにかく、まじめにまじめに読む。彼にとっては、歴史は、「知る」ものでも「わかる」ものでもなく、「読む」ものなんだな。 <P>この本にはいろいろなことが書いてあるけど、そういう、歴史学の方法論みたいなところが一番おもしろかった。とにかく史料にあたる。でたらめかもしれないけど、とにかく読む。ほかに依拠できるものがないから、それしかできないんだよね。 <P>なんか、人間の考えというのは考えのもとになっている要素が豊かだから豊かになるというようなものではなく、そういう「考えるもと」がぜんぜんなくっても(史料が乏しくても)、豊かな思考を展開できるものだなと、思った。何かを制限されている状況の方が、みんな活き活きとするものだ。
網野史学の入門書という本書の立場は、著者が筑摩書房の社員を対象に話した内容をまとめたもの、からも揺るぎないものであろう。そんなわけで著者としては若い人に読んでもらいたいとあとがきにも書いてある。その辺り、意気込み的には文句のつけようがないのだけど・・・話口調をそのまま編集した本書、これ読みやすいって言う人もいるのだろうけど、私的には大変読みづらいものでした。折角の既存歴史観を覆す「網野史学」の入門書ならば、もっと体系的に対比的、スキーム的に編集できなかったのかしらん、と少々惜しい気が。しかし、内容は文句なく面白く、推薦本です。
本書は、筑摩書房より刊行された「日本の歴史をよみなおす」(1991年)と「続・日本の歴史をよみなおす」(1996年)を一冊にまとめて文庫化したもの。<BR>原著が〈ちくまプリマーブックス〉という若い人向きの叢書だったこと、編集者に語ったものを文章に起こすという方式をとったことなどから、網野善彦の著作の中でも、平易な文章で判りやすい。網野史学の入門書としては最適だろう。<BR>ただし、網野善彦のもっと専門的な著作をすでに何冊も読みこんでいる読者には、目新しい記述があるわけではないので、特に買う必要のない本といえる。また、著者没後の出版でもあり、加筆修正もないので、原著を既に読んでいる読者にも、買う必然性はないだろう。<BR>これから網野善彦を読んでみたい人、日本の歴史(殊に中世史)に興味はあるのだけれど、小難しいのはちょっと……という人にこそ、おすすめしたい一冊である。