東京学芸大学の教授である著者の、講義録をベースにした社会論。講義を聞いた学生からは「暗くなる」という感想もあったと、著者自身も認めているように、読み進むうちに、確かに暗い気持ちになってくる。冒頭から第8章まで、約200ページにわたって、日本の社会のもつリスク化と二極化が、職業、家族、そして教育をいかに不安定化させているかについて、悲観的な事象を深堀りしている。この展開に規則正しく付いていくのには、さすがに気が滅入ったので、最終章「今何ができるのか、すべきなのか」を先に読んでしまったくらいだ。そこにも安易な楽観論は無かったことに、逆に何故か納得して、再び本文に戻った。下手で無責任な未来予測で、真摯な主張が失われなかったのは、幸いである。<P>本書のテーマにもあるように、人が生きるための基本事項は、希望である。多くのビジネス本でも、部下や社員に夢を与え、動機付けることによって、生産性を上げ、云々と、夢・希望・動機が重要視されているが、社会全体に「希望格差」が拡がっているとしたら、もはや、サラリーマンの自己啓発に委ねて置ける問題ではない。業績という経済的成功を目指す経営者や企業人も、組織運営の観点を超えて、希望指数の上昇努力に取り組むときなのであろう。そのためにも、個人の力を生かすことを重視する、仕組みづくりを急いで、早く希望増幅社会に転換させなければならない。
人生はそもそもタイヘンでありザンコクなのだ、という近年、特に戦後から高度経済成長~バブルの時期に忘れられていた当たり前のことを改めて訴えている、そういう本である。<P>この本を手に取る人は既に分かっていると思う。21世紀の日本は残酷な椅子取りゲーム社会で、椅子を取れなかった人には億ションも年2回のリゾートも毎週末のフレンチも一生縁の無いものになり、一度縁遠くなるとそれは二度と近くにはやってこない、敗者復活の無いゲームなのだ、ということを。<P>そして、その通りだということを本書は指摘するだけだ。もともとそういった社会の到来から目をそむけている人はこの本を手に取らないだろうし、なんとなくそういった社会が来つつあることを感じ、そのプレッシャーの中でリスクを取り努力し戦っていくことが必要なのだと感じている人が、やはりそうなのだ、ということを数値や現象で説明され、また戦っていく意思を確かにするという、まあ、ある意味残酷な本である。
『パラサイト・シングル』というヒット言葉の生みの親、山田先生の書き下ろしです。<P>現在の日本社会だけでなく世界全体で進行する社会シフト状況を、<BR>「リスク(の偏在化)」と「二極化」と捉えます。<P>本書は、この2つの実感を、膨大で緻密な統計資料分析、<BR>文献分析、インタビュー取材などを通して検証し、<BR>きたるべき暗澹たる社会を憂慮します。<BR>特に、オールドエコノミー経済社会へ人材を送出する<BR>社会装置である教育システムを、パイプラインととらえ、<BR>その弊害、疲弊を<BR>鋭く分析します。<P>また世代間の不公平、職業の不公平、家族の崩壊過程、未婚、<BR>少子化の原因などなど、現代社会を多面的に分析し、<BR>2つの象徴的なキーワードを導き出します。<P>本書を読み、米国のような社会、つまり、勝組み、負け組みが<BR>明確にわかれ希望、やる気を喪失した世界がくることは、<BR>元米国労働長官を務めたハーバード大学のロバート・ライシュ教授<BR>の著作に、すでに描かれており、日本も米国のような社会に<BR>なるかと思うと、さらに夢も希望ももてない<BR>暗澹たる気持ちになります。<P>特に、日本世界を分析した本書では、フリーター、<BR>できちゃった結婚、「負け犬」、引きこもり、など<BR>時代を表す言葉をうまく取り入れながら、<BR>なぜ、リスク化社会になったのか、二極化社会になったのか、を<BR>社会学的文献分析を駆使するとともに、宗教教義、<BR>歴史的考察や世相記事、事件をも駆使して、説得性ある分析をくりひろげています。<P>今に生きる社会人として、「必読の一冊」といえ、大変お薦めです。