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自由からの逃走 新版 ( エーリッヒ・フロム 日高 六郎 )

本書は、ナチスドイツが何故成立するに至ったのかを、当時の社会的経済的要因・人間の心理的要因から迫るものである。本書は、ナチスドイツという具体的な事例を挙げているが、その分析は本質的であり、条件がそろえばいつでもナチスドイツ的組織が成立することを示唆していると思われる。<P>人間の歴史は自由を獲得しようとする戦い(デモクラシー)の繰り返しであり、ナチスドイツ=権威主義的組織の出現においても、人間の歴史からすれば、この権威・抑圧を打破する戦いが生じる予定であった。しかし、現実はこの権威・抑圧に服従するに至る。著者は、自由獲得の戦いに至らずそうした権威・抑圧に服従するに至った点に問題意識をもち、当時の経済的・社会的要因と人間の心理的要因との交互作用という問!を分析することで、これに答えを出している。すなわち、経済的・社会的要因として資本主義が発達し、それによって人間がそもそも持っていた「自由」の意味が変化し、自由獲得の反面、人間に孤独・無力をも認識させるにいたった点、そうした孤独感・無力感は、心理的には人間に「逃避のメカニズム」を準備し、権威への服従や機械的画一性によって安心感を与えてくれる、これがナチスドイツを成立させる、という現象を発生させる、ということを主張するのである。<P>こうした主張は、人間が本質的に持つ二面性を示唆していると思われる。つまり、人間は一方で個人的合理性のために「自由」を求めようとするが、他方で社会的合理性のために「個人の自由」を捨てようとする、ということである。こうした個人的合理!性と社会的合理性の迫間でナチスドイツ(権威的組織)が成立し得た、という点に注目すべきであろう。

 前近代的な絆から解放され、人は自由を得た。しかしこの自由は、決して甘美なものではなく、絆からの解放により必然的に苦痛を生じさせるものであった。その苦痛とは、虚無感・孤独感である。このような状態に人は耐えられない。失われた絆を求め、孤独に陥った人は死に物狂いの「逃走」を開始する。人間はただ自由であるだけでは十分ではない。消極的自由から積極的自由への転換が必要である。<P> この書は、ナチズムの心理学的観点からの分析に主題をおいている。その前提として、自由のもたらす意味を考え、更に現代的状況と類似しているルネサンスから宗教改革時代の人間の心理状況の分析を行う。単に心理学的分析ではなく、社会的な文脈においてつくられる社会的性格について言及している点は非常に興味深い。一読して損はない一冊であると自信を持ってお勧めする。

 自らもドイツ生まれのユダヤ人として,ナチズムと否応なく向き合うことを余儀なくされた社会心理学者フロムにとり,人間が社会の中で,人間らしくありながら「自由」に生きることの困難さは自明のことであった。一見,近代化に伴って諸権威から解放されたはずの人間が,なぜか自ら権威を作り出して不自由の中に身を置こうとする。この構図は現代社会に置いても変わることがない。この「当たり前すぎて気がつかない(Taken for Granted)」人間の本性に潜む精神構造を鋭く暴いた本書は,現代社会に生きる我々にとって,永遠の命題を鋭く突きつけている。<P> 一方,「ではどうすれば良いのか?」--読み手の側からの問いかけに関して,フロムは愛と生産的な仕事を挙げる。しかし,その解答の普遍性についての論拠は曖昧なままである。ここに,カソリックだったフロムの限界があるようにも感じられる。課題が残るとすればこの点ではないか。<P> 視点を巨視的にとると,この著書もまた,20世紀におけるポスト・モダン思想の心理学における実践であったのだという事実に気づかされる。結局,普遍的な解答など存在しないのだ。それ以前に,解答において普遍性を求めることそのものが,そもそもモダニズムであり,自由ではないのだよ・・と居直しかないのかも知れない。間主観的な合意としての解答だったのか。それとも,ポストモダニズムの不毛を予見していたのか。そういう読み方をすると,読むべきところはまだ隠れているという気がする。

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自由からの逃走 新版&nbsp;『自由からの逃走』はドイツ生まれの社会心理学者エーリッヒ・フロムによって1941年に発表された。フロムはヒトラーの全体主義に世界が震撼するその最中に、この作品を世に送り出した。このことは本書が単なる研究者向けの論文ではなく、ナチに追われてアメリカに帰化した著者自身の「時代の狂気に対する叫び」でもあったことを物語っている。 <p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;本書はナチズムに傾いていくドイツ国民とそれを先導した独裁者の心理状態を詳細に説明し、人々に「なぜ」を明らかにしている点で非常に興味深い。あの狂気を生んだ悲劇の根源は、「自由」という人類に与えられた恩恵であった。その分析に触れるとき、読者は、本書が今もなお警鐘を鳴らし続けていることに気づくだろう。 <p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;自由であることの痛烈な孤独と責任の重さを受け止め、真に人間性の実現といえる自由を希求することなくしては、人類にとって望ましい社会は生まれない。フロムは問う。幸福を追求するために選んだ自由が果たして「本当の自由」といえるだろうか。「選ばされた自由」にごまかされてはいないか。気づかぬうちに他者に対する加害者となっている自分を許してはいないか。 <p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;フロムは、個人が生きるその社会の姿を理解することなしに、自由に生きることなどありえないと語る。本書は、国家のあり方という問題に対してだけではなく、現代に生きる個人がその人生を充足させるためにはどう生きるべきかという問題に対する重要なヒントとなっている。(齋藤佐奈美)
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