高齢者の所得格差はもともと大きい。日本が急速に高齢化している以上、格差が拡大するのは当たり前である。本書の主旨はそういうことである。高齢化が問題の核心であったとしても、現実に生きる私たちにとっては格差社会の到来であることに変わりない。むしろ高齢化社会が厳然とした現実社会の方向性で有れば、格差は見かけのものだとは到底思えない。まえがきには、「効果的な不平等是正策については今後の課題として残されている」とあるが、それでは遅すぎるし、急を要するだろうことに変わりはない。一生食えなかった者が食えないまま死んでいくのと鱈腹食った者があまり食えなくなって死ぬのとどっちが不幸か、不幸を比べて競争している暇はない。
大竹文雄氏の不平等論は、橘木氏の議論を反証し、90年代の所得不平等の拡大は高齢化に伴うみせかけのもので、日本の所得格差の拡大は幻想であるという議論を行ったことで広く知られている。しかしながら、若年層の所得格差(または、非正規雇用者の正規雇用者に対する所得格差等、労働市場の「割り当て」により生じている可能性の高い所得格差)の拡大については、一定の懸念を示している。なお、本書は一体的な書籍というよりも、論文集的な性格を持っている。あえて欲を言えば、最後に著者による総括的なまとめとして、現在社会に存在している格差は問題視すべきものか、何らかの施策的な対応が必要か等を論じて欲しかったところ。例えば、過度に「結果の平等」を求めることは悪平等との意見が多くあることは理解するが、その格差が入口の「機会の平等」が確保されないことにより生じているのであれば、社会移動を通じて社会の活力を高めていく上で大きな障害となると言えるだろう。ただし、機会の格差や格差の世代間移転等への言及がない点を割り引いても、本書は不平等問題に関する現時点の決定版であり、今後は、本書をも起点として、格差問題を検討していく必要が出てくるだろう。