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ピアニストが見たピアニスト ( 青柳 いづみこ )

ピアニストがピアニストを分析した興味深い本。音楽関連の雑誌でとり上げられ、話題になっている。選ばれた演奏家はいずれも個性的かつ高名な6人であり、各々が主に演奏家心理の面、および演奏の技術論の面から、つまり通常の評論家ではアプローチできない側面から論じられる。ときに紋切り型表現があって気になるが、文章は明快で、読みやすい。また、記述はおおむね時系列に沿っており、資料としても使いやすい。<P>切り口の新しさと議論の明快さは特筆でき(星座による性格規定は同意できないものの)、クラシックのピアノ音楽に興味を持つ人なら必ず楽しめるだろうと思う。「トンデモ演奏家」に分類されかねないハイドシェックについての文章は私の認識を新たにしたので、(おそらく不当に)安く売られているベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集をそのうち入手して聴く予定。宇和島ライヴだけで偏見を持っていたから、もう一度まじめに聴いてみたい。また医師としては、彼を襲った1997年の左上肢の故障が気になる。湿布を出した医師の見立ては誤診と思われる(診断がつかずに苦し紛れの処方だろうと思うし、たぶん神経内科医の診察ではないだろう)。<P><P>本書は推薦である。

大作曲家が碌な死に方をしない例が多すぎるので,私はかねて音楽の女神が実は魔神なのでは,と疑っていた.本書を見れば,演奏家も随分ひどい目に会っていることがよく判る.そもそも音楽なる業はまともで安全なのだろうか,ミューズは実はネメシスなのではないか,とまで疑われる(音楽にはある恐ろしさがあることは,アルフレート アインシュタインの持論であった).リフテルとかアルヘリチのような大家がピアノを弾くこと自身を恐れると言うのは怖ろしいことではないか(この本はこの二人について特に面白い).著者の師バルビゼは温厚な人物だったせいかこの種の呪いを免れたが,パートナーのヴァイオリニストは逃れられなかった.私はバルビゼとエイドシエクを知らないので,本書に言及のあるフランスEMI盤をamazon.frから取り寄せ,目下感心して聞いている.

リヒテル、ベネディッティ=ミケランジェリ、アルゲリッチ、サンソン・フランソワ、バルビゼ(著者の師)、ハイドシェックの6人について、関係者の話を聴き、様々な資料も使い、大変興味深く一気に読ませる。「同業者」ならではの観点から述べられた箇所は、アマチュアにも理解・共感できる記述である。おかげでこれまで上記ピアニスト達に抱いていたいくつかの「もやもや」が、大分すっきりした。いわゆる「音楽評論家」の商業主義的迎合や批判のための批判、知識先行の鑑賞軽視(!)横行にうんざりすることの多い中、きちんと聴いて書いてあり、ピアノの奏法を説明している点は大変ポイントが高い。文章も読み易い。ピアノ好きなら読んで後悔することはないだろう。

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