本書の主題「インフラ」はヒトの生み出した、特別な「仕掛け」なんだなって思いました。シロアリの蟻塚や蜂の巣も「インフラ」と言えるかも知れませんが、「機能」を身体の外に共有することによって「利便性」を追求するおおがかりな「道具」なわけでしょう。ヒト、特にそのオスは「インフラおたく」になりやすいのはそのせい?<BR>まるで無制限に巨大な富を吸い込んでいく「金の生る木」に変身した点を見ても、また、その分野での成功者が、やはり「メディア」から「インフラ」になりつつあるテレビを金で買い取ろうとしていることも、著者が(妙な案配に)こきおろす『IT』が現代最大の「インフラ」であることは間違いないと思うんですが、いかがなものか。それとも「インフラ」は国家の専管事項だ、という元官僚の思いこみ??
都市のインフラ、という視点で街を眺めながら突き当たる著者の「何故だろう」が次の考察を呼び、<BR>最後に一つの歴史の謎解きになっている、という読み物として非常に面白い本です。<P>不必要にインターネットを攻撃したり、道路建設を擁護したり、「臭み」もあるのですが、視点の新鮮さには感服で、★五つとします。<P>鎌倉に幕府を開いたのは、頼朝が衛生的な都市を志向したからだ、とか奈良から京都の遷都は、背後の森林が荒廃したからだ、とか、<BR>歴史学者が真面目に検証すべき仮説がフンダンに盛り込まれていると思います。今後の議論の出発点になって欲しい本です。
別に、236ページに「河川局の海岸室に電話をして、その図が今でもあるかを問い合わせた」とあるのを局長様による公私混同だとは思いません。ところどころ出てくる「国土交通省提供」の写真とか「国土地理院提供の数値地図のデータを用いて作成した」海進図とか、当然、一般市民でも使える方法で手に入れられたのだろうと思います。また、第10章で大阪の横丁の狭さを褒めた舌の根も乾かないうちの第11章で「街の安全を守るために」(p.206)区画整理による街路幅の拡張を主張するなんていうのも出世した役人らしい融通無碍ぶりで微笑ましい限りです。さらに、通り一遍しか見ていないで「大阪-皮膚感覚の街」とか言って「単身赴任の私などはアッという間に受け入れられる」(p.181)なんてのろけるのもかわいいもんです。<P> と、まあ香ばしくもつまらないところ満載ですが、それを置いても、この本の面白いところは、忠臣蔵や石狩川捷水路工事を「農業」の重要性という観点から説明しているところです。農耕という要因は、歴史や軍事、政治を語る上でどうしても見落とされがちなところですが、それを農水省ではなく、旧建設省上がりの「社会資本整備の論客」(奥付)が言っているところに妙味があります。<P> 最後に。207ページに「自治体職員の励まし」とありますが、余計なお世話でしょう。