本書には、生命科学の研究者として第一線で働いていた著者が、30年余りにわたって名前も分からない病気と闘った日々の様子が描かれている。ライフワークである研究を断念し、長年回復の見込みもつかない病気に苦しめられた著者の長年の苦痛は想像を絶するものであろう。しかし、そんな人生を送った著者のメッセージは明快だ。苦しみや悲しみは自分で作り出している。生きること、存在することそのものが喜びであるということだ。著者の学問や人生に対する真摯かつ謙虚な態度には敬服あるのみだ。この世に生を受けた以上、がんばって生きなければいけないと再認識される一冊だった。<BR>また、日本の医療の権威主義、ご都合主義がよく描かれているが、非常に嘆かわしい。現在もこのような状況であるのなら患者、医療従事者ともに医療の本来の姿を再考する必要を強く感じる。
この本の著者である柳澤桂子氏を知ったのは「生きて死ぬ智慧(2004発刊)」を読んだことからであった。<BR>生命科学者としての絶頂期に襲われる難病。その診断に対する医師達の無理解、傲慢さ。これは今でも現実に起きていることである。そして家族の無理解と理解。宗教に対する考え方。<BR>難病に悩み医療界を去った私(読者)には痛いほどよく分かる内容であった。そして著者の強さには敬服するのみである。<BR>この本の存在をもっと早くに知っておくべきであった。医師を含めて全ての人に読んで頂きたい本である。
今年の春、病院で亡くなった独身の叔父のことを思い出しながら読ませていただきました。もっと早くこの本と出合っていたら、慣れない入院生活で悩み苦しんでいた叔父に対してより親身になれたかもしれないと悔やんでいます。難病を抱えながら数々の苦難を乗り越えてきた著者の言葉に、家族や自分自身の抱える将来の不安と対峙する知恵と勇気を与えられた気がします。