山岳ノンフィクション作家の丸山直樹による、クライマー山野井泰史の半生記。<BR>山岳雑誌『山と渓谷』97年8月号から98年6月号に連載されたものを取りまとめたものである。<BR>新聞や雑誌の記者をしていた著者ならではの、精力的な取材に基づいているため、事実関係については、幼い頃のことから細かくフォローしている。<BR>しかし、著者自身が登山を得意とするためであろうか、著者の人間性や考え方があまりにも文章に現れていて、私にはすこし読みづらかった。まるで、「団体にくみせず、自分のやりたいことを貫くが、他人にはやさしい」という著者が書きたいクライマー像または人間像があり、それにあわせて事実を解釈しているように思えるのだ。<BR>1997年当時、一般にあまり知られていなかった山野井の業績を取り上げたという意味で画期的な本ではあったであろう。しかし、現在では、一般の読者にとっては、この本が出た後に出版された山野井自身による『垂直の記憶』や、沢木耕太郎による『凍』のほうが断然面白い。もちろん、特別に山野井ことを詳しく知りたいという人や、著者の考え方に共感する人にとっては、現在でも読む価値のある本である。
著者の丸山直樹さんは、なかなかの論客だと思います。<BR>ひとりの稀有なソロクライマーの生きざまから、なにかの答えを導き出そうとしています。<P>丸山さんはフリーのライター(?)。<BR>その著者の目を通して、山野井泰史という珍しい人を描いています。<P>最初の部分では、丸山さんが山野井さんを注目するにいたる経緯が書かれています。この部分は少し冗長。丸山さんのいきさつよりも、すぐに山野井さんの紹介に入ったほうがいいような気がしました。<P>ですが、本人ではなく第三者が、山野井泰史さんを語っている、という点がわりとおもしろかったです。山野井さんのひととなりが、よくわかります。山野井さんの周囲にいるひとびとからの多数の証言や、奥多摩にある自宅までお邪魔してのつきあいから、じわじわと、そのひととなりが伝わってきます。<P>わたしは山とかクライミングに興味があったので、楽しく読ませてもらいました。でも、興味がなくても、おもしろいかもしれません。変わった生き方をしているひとりの男の紹介本だからです。<P>そういう意味では、常人から突出した山野井泰史さんの半生を読みおわったあと、あらためて自分の生き方はどうなのかな、と考えさせられる作品に仕上がっています。<P>後半に書かれている「It is there」という意味が、日本語訳では「山がそこにあるから」となってしまい本当のニュアンスが欠落しているのではないか?と疑問符を投げかけているあたりが、おもしろかったです。著者の日本人に対する観察眼にも、同感できました。
岩登りを知らない人に読んでほしいです。こんな世界もあるのです。詳しくは知らないのですが山野井さんは何らか状態で何本も指を失なわれたそうです。幸い命に別状はないそうですが・・・・<BR> 壁登り自体異質な世界ですが、ハイレベルな壁をソロで登るのはこの世界でさえ同じように異質です。通常の人には出来ないからです。<BR>壁はどこを登るかによって難しさが大きく変わります(例え1m横にずれても)。<BR> 自称「登山家」や自称「クライマー」がはびこる中(失礼!が、私もそうです)一流のクライマーをよく捉えている作品だと思います。実際クライマーの中で彼を悪く言っている人は、この世界には珍しく居ないようです。ソロはパートナーを付けないのでロープの操作が非常に困難かつ危険で行きづまって少し助けを借りたくても通常いるはずの人がいません。また、自分で打った支点やギアは自分で回収しなければならず通常より体力がかなり要ります。尋常な世界ではありません。言葉でも伝わらない世界がこの本の中に描かれていると思います。又、山野井さん自身が書いた「垂直の記憶」はめったに無い本なので本当に読んでほしいです。星4つなのは御自身が書いた物で無いからですが、5つでいいです。