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創造的論文の書き方 ( 伊丹 敬之 )

この本は研究とは何か、研究を行うプロセスとはどういうものかについて多くの思考の材料を私に与えてくれた。日本やアメリカで市販されている他の論文の書き方の本とこの本が大きく異なる点は、その「議論の深さ」であろう。研究者を目指す方がこの本を読むことで得られるものは、創造的論文を短期間のうちにすぐ書けるかというものではなく、研究するものは何であるのか、論文を書くことは何であるのか、といったより本質的な問題について色々考えさせられる点であるように思う。従って、場合によっては今取り掛かっている論文の完成時期がこの本を読むことでかえって遅れるかもしれない。しかし、そうなるとしてもその遅れは「創造的論文」へより近づくためのプロセスであると考えるべきである。その価値がこの本には十分あるのだ。他のレビューでアナロジーを多すぎるという批判があったが、私はこの本の中で使われたアナロジーは非常によく考えられていたもので、読者の理解を助けるものであると思う。これから読む読者には、この本をじっくり、3回くらいは読むことをお勧めしたい。そのくらい素晴らしい一冊である。

私自身も研究者として修士・博士論文執筆には苦労した経験をもっているので興味深く読むことができた。ただ、この本で書かれてあることは、これから論文を書こうとする人が読んでも抽象的すぎてピンとこない内容のものが多いと思う。「京の町屋」だとか「風呂の中のめがね」などの抽象的な比喩を使う代わりに、著者自身の著作執筆の具体例に挙げて説明すればもっとわかりやすくなったと思う。ひとつ気になったのは「論理重合法」というリサーチメソドロジーの話だ。この考えはアイデアとしてはおもしろいが、少なくとも欧米の研究者の間では全く認知されていないものである。本著を読むと多変量解析や事例研究の欠点を克服すべき革新的なメソドロジーであるような感じを受けてしまうが、いまだ学会で認知!!れていないメソドロジーを本著のような初学者も対象にした本の中で紹介するのは少し野心的すぎるのではないか、と思った。

著者の大学院生・若手研究者への指導の過程・経験を集大成したものだが、研究者でない私にとっても、大変参考になった。<BR>企業で事務・企画に従事する者にとって、テーマ選定の労苦はないが、現実を分析し、仮説を立て、方向性を示し、具体案を提示し組織の意思決定を促す作業は、(レベルの差はあれ)論文の作成に通じるところがある。<P>データ・文献の読み方に加え、「プロは舞台裏をみせるな」、「止めを打つ」といったポイントは、優れた稟議書・企画書・提案書を作成する上でも、相通じるところがある。<BR>実務家向けの書は、プレゼンテーションの技術偏重のものが多いが、本書はこのようなものに欠落している本質的な論理的文章のまとめ方を示したものとして、大いに参考になる。<P>「対話編」と「概論編」に分かれていることも、理解を多面化し著者等の経験により説得力に厚みも持たせる上で有効な構成となっている。

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創造的論文の書き方――「いい研究」の定義、「いい文章」の定義には、それぞれ2つのキーワードがある。研究の場合は、「意義があると思える」と「たくみに迫る」であり、文章の場合は、「説得的に」であり、「わかりやすく」である――。 <p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;本書は、一橋大学の有名教授、伊丹敬之による論文作成のための心得集である。単なる文章作成マニュアルに終わるのではなく、論理的に正しい論文とは何か、読み手を正しく導くための注意点は何かを、生徒たちとの議論を交えながら説いている。 <p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;本書の約半分を占める生徒たちとの対話では、生徒たちの自省を通して、書き手が陥りやすいワナを見事に指摘している。少数のアメリカ企業を取り上げて一般化してしまう、つながっていないのに文章でごまかしてつなげる、などの例を読んで反省する人も多いのではないだろうか。 <p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;もう半分の「概論編」では、研究のしかたと文章の書き方を指南している。全体的に、正しい論理構成やデータの扱い、仮説の検証などに紙数が費やされており、長い目で見れば、手っ取り早い文章マニュアルよりも役に立つ。 <p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;文章術に関しては、明確な書き方は示されていないが、「アウトラインを準備する」「『構造』あるいは『流れ』で(文章の)つなぎを作る」といったアドバイスは、書き手にとって有益だろう。社会科学の研究に携わる研究者やビジネスパーソンに、ぜひおすすめしたい1冊である。(土井英司)
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