人類はその起源以来、世界中に拡散しそれぞれの地域に適合した生活、文化を育んできた。<P>その起源、スタートにおいては大きな差がない生活を送っていたにもかかわらず、その一部が首長社会を形成しはじめ、さらにその一部が国家を形成するといった具合に、それぞれの地域ごと、集団ごとの文化や社会的発展に大きな違いが出てきた。<P>文化の面においても、石器を使い狩猟生活をいとなみ続けた人々と、技術を発達させ、農耕社会を築き、文字を発達させ、他大陸を征服するといった民族との大きな差異が出てきた。<P>本書はなぜこのような人類史上の不均衡が生じたかを、この13000年の人類の歴史を俯瞰することによって、解明しようとする、意欲的な人類史論、文明史論である。<P>生物学者である著者の分析は科学的アプローチによってなされている。例えば、大陸の形状による環境の違いが、農耕や家畜化に差異を生じさせ、又、地形という障害が技術の伝播を遅らせた、それがひいては、現在の大きな民族間の文化的差異を生んだとする。このような着眼はユニークで斬新なものだが、豊富なデーターに基づいて展開される論証は説得性に富む。<P>地球上に存在する人類の地域的あるいは民族的な文化成熟度の差異は、例えば白人が黒人より優れているからだとする人種差別主義者的発想があるが、本書の主張はそれを、真っ向から否定するものである。その論拠が科学的裏付けに基づいているだけに小気味良い。<P>例えば、同じ島国でありながら、日本とマダガスカルがなぜその発展においてここまで異なってしまったのかといった疑問もそれぞれの地理的、気候的な環境によってそれぞれの住民の生活習慣が異なり、それに伴って技術の発達・伝播の速度に差異がでることによってと説明される。<P>久々にスケールの大きな、文化人類学の本を読んだ思いがする。
1万4千年前以降の人類の進化・発展が、立体的にぐいぐいと迫ってきました。本書のストーリーの構築の土台には、数百年にわたる膨大な事実の収集(遺跡の発掘や現代の人類のフィールドワーク)があったのだとおもいますが、その巨大な情報の蓄積に、芯となる目を書き入れた感があります。図表を多用せずに文章だけでここまで表現し伝えられる著者の能力に驚きます。<P> 家畜・作物等の原種の有無、それが大陸内・大陸間で伝播する条件の差、で鮮やかに人種間の興亡を描ききっています。それでいてセンセーショナルな誇張を排し、正確な事実の積み重ねと著者の仮説を分けていることに好感をもちます。今まで持っていた歴史観を揺さぶられる内容でした。<P> 特に、「言語」についての考察には興奮を覚えました。「言語」は、外部的なDNAといえるものなのだと感心させられました。文化を伝える現実の道具としてだけでなく、その経緯の痕跡が残っている点もDNAと似ています。この外部的DNAを持ったことが人類の進化を加速化させたのですね。
書いてある内容は、それほど突拍子ないわけではないし、冗長といってもいいぐらいの分厚さだ。でも読んでてすごく楽しいし、ワクワクするし、一気に読んでしまう。なぜだろう。<P>擬似生物学的人種主義という(頭の片隅では僕もたぶんあなたも抱いてる)考え方を明示的に論敵としていること、著者の示す図式が明快であること、そして無数の事例や知識が著者の図式と科学的論証手続きにのっとってきれいに配列されていること。たぶんこれらが相まって僕の頭をすっきりさせてくれるのだ。<BR>おかげで大掃除は来年に持ち越し。