本書は、副題のとおり、現代における外交の本質について、歴史的な壮大な視野から、「他の形態での戦争」であることを明らかにした上で、そうした外交観の上にこそ、今後の我が国の外交を構築しなければならないと指摘するものである。昨今、特にいわゆる「特定アジア」との関係を巡って、さまざまな主張がなされているが、それらが本書で的確に指摘されたような「外交の本質」に立脚していないがゆえに、単なる小手先の議論に終始しているといえる。<P>さて、外交とは、本来戦乱に明け暮れた中世ヨーロッパ以降、そうした戦争を「文明化」し、一定のルールを決めることで、相手国民を殲滅するまでの悲惨な戦争を回避しようとするものとして発達してきた。このことは、単に著者が指摘するのみならず、外交論の教科書的解説でも出現するものでもある。そうであるがゆえに、戦争が総力戦であると同様に、外交もまた、国力のさまざまな側面を駆使して行われる総力戦である。こうしたことから、軍事力、経済力、文化力など、あらゆる手を駆使して、なるべく武力を使わないで国益を最大化するのは当然である。<P>戦後日本において、特に外務省、マスコミや左翼イデオローグに根強く残存する、こうした国際関係の基礎の理解不足のために、外交とは単に「交渉のテーブルにて行うもの」といった矮小な認識がなされているところが、昨今の我が国の外交的諸問題の根源ともいえるだろう。さらに著者はこれが、我が国の本質的問題ではなく、日露戦争期において、外交が極めて機能したように、まさしく「戦後」の問題であるとも指摘している。<P>さらに著者の指摘で極めて興味深いのが、戦争発生の原因として(特に若年の)人口増加を指摘している箇所で(85-105頁)、このため人口減少を迎える我が国こそが「まさしく世界のお手本」(100頁)と述べている。淡々とした筆致であるが、問題の本質を鋭く抉り出す著者の力量に敬服したい。
自分の不勉強を恥じるが、ここまで見事に二十世紀の国際関係史を総括できる人を知らない。<BR>主題は主権国家の為す外交と戦争である。<BR>論調は淡々としており冷徹な現実認識に貫かれている。<BR>戦争とは粛々とこのように行われてきたんだよという諭しである。<BR>戦争の悲惨さは問わない。<BR>国際的な政治力学から見て戦争とはどういう手段なのかという考察があり、<BR>また戦争が発生する要因についても考察している。<BR>これらを歴史事実を織り交ぜて具体的に論じているので中身が濃い。<BR>この本は戦争の本でもあるが外交の本でもある。靖国「問題」を突っぱねた後、<BR>困った隣人たちにどういう態度をとるべきなのか、考える上でも大いに参考になる。<BR>アメリカの凋落をはっきり予感しているのも考察として頼もしい。歴史感覚を持つ人なら当然のことだ。<P>結局外交と戦争はコインの表と裏なのだ。<BR>これまであまりにも日本人は悲劇の文脈で戦争を語ってきた。<BR>この本は現実に発生する戦争というものを冷静に考えさせてくれる。<BR>平和とは口先だけで願っていれば実現するものではない。<BR>著者のような国際感覚のある分析力があり、国家としての的確な行動を判断し、<BR>それを実現できるリーダに表舞台に立ってもらってやっと実現できるものなのだ。<BR>この本が、有権者である国民の良識の一助となることを期待したい。