黎明期からジャーナリストとしてヒップホップに関わってきた著者による、音楽と各種文化との相関関係を描いた歴史書。導入部からもう、ある種の人々のハートをワシ掴みにしてくれる。<P> ヒップホップに関連するテーマを詳細に挙げて(政治、ドラッグ、ビジネス、バスケ、ビデオ、ラップの品性…)、それらをチャプターごとに考察していく筆さばきは見事なものだ。原書刊行が98年だから、70年代から90年代にかけてのヒップホップトレンド(UKのトリップホップまで!)の推移についての突っ込んだ理解を得ることが出来る。<P> ヒップホップジャーナリズムにありがちな、「白人」「ウェッサイ」への偏見や、過剰なオールドスクール賛美など全く無い、明晰でフェアでフェミニンな視点からなされる思索がとても清々しい。中学生の英文和訳のような翻訳が玉にキズだが、充分に素晴らしい書物だ。<BR><BR> 注)訳書では、著者がエミネム登場後のシーンの概観を語ったインタビューが付されている。
ネルソン・ジョージは白人ではなく黒人です。もと黒人コミュニティー誌「Amsterdam News」の記者で、のちにNYの情報誌「The Village Voice」に "Native Son" というタイトルのコラムを書いていたブラック・ミュージック・ジャーナリストです。現在は小説家として活躍していて、ジェームス・ボールドウィン、リチャード・ライト、ラングストン・ヒューズなどの影響を受けているのがよくでています。「ヒップホップ・アメリカ」はヒップホップというカルチャーを知るうえでとても参考になる本です。アメリカ、黒人社会を知るには欠かせない要素がいっぱいつまっていて必読の書だと思います。ネルソン・ジョージの独特の洞察力で、音楽シーン、アメリカ社会、ブラック・カルチャーをわかりやすく描いていると思います。強いて言うと、もっとやわらかい言葉で書いて欲しいですね。
ここで扱われているHIPHOPとは単なる音楽ジャンルのHIPHOPではない。<BR>ラップ・グラフィティ・ブレイクダンス・DJといった4つの要素がブラックカルチャーから芽を出し、<BR>アメリカという土壌に根付いて社会を侵食したのちに世界を覆い尽くすほどの枝葉を広げつつある、文化や現象としてのHIPHOPである。<P>小さな街角で生まれたHIPHOPはなぜHIPHOPのまま成熟することが出来たのか、何がHIPHOPをHIPHOPたらしめたのか…<BR>アメリカの抱えた様々な問題をHIPHOPというフィルターを通して見ることで分かりやすく、深く理解できるだろう。<P>白人でありながらHIPHOPを長年追ってきたという著者の文章とHIPHOP事情に詳しい訳者の仕事が非常によく噛み合っていて、<P>HIPHOPファンはもちろん過去の音源を追うDJ諸氏や異文化研究を目的とす人にも非常に読み応えのある本に仕上がっている。