私は著者の晩年に、その謦咳に接することができた。本書のタイトルには一瞬ためらう人も多いと思うが、一読された方は、それが本書の内容を表していることがわかるだろう。科学が細分化され、自分の専門領域にのみ執着する小型な科学者が多い昨今、著者は、固体物理から非線形科学、神経の物理的解析、脳の機能解明(脳内信号の視覚化)、そして脳型コンピュータの開発と、途方も無いスケールの科学者であった。その著者が脳とコンピューターの研究から愛や宗教にまで考察を広げた。本書は近来稀な壮大な思考を凝集させた傑作である。
題名に「愛」の文字があるので、ロマンティックな内容を期待して読み始めると「あれ?」と思うでしょう。というのも、前半の50頁は「脳の構造の解説」や「脳型コンピュータの開発の話」で、ロマンスのかけらもない大変硬派な内容だからです。<p>前半は本題に入るための前提部分ですので、何となくイメージをつかんでおけばOKです。<br>この本の神髄は後半に書かれていて、以下のようなことを仰っているのだと思います。<br>----------------------------------------<br>脳は、自らアルゴリズム(コンピュータでいうプログラム・ソフトウェアにあたる)を獲得する開かれたシステムであり、いままで出来なかったこともどんどん学習してできるようになる。<br>では、脳は単なる「自己学習機能付きコンピュータ」かというと、決してそうではない。そこには決定的な違いがある。<br>脳は、情報を処理するにあたり、常にある価値に照らして、その価値に適合するかどうかの判断もしている。そしてその価値に適合する場合に、脳は最大の能力を発揮し、人間は潜在能力を現して大いに成長する。(病人の場合、著しく回復する。)<br>そしてその価値こそが「愛」である。<br>----------------------------------------<p>以前、親の愛にふれた子供ほど学校の成績が高い傾向にあると聞いたことがありますが、それが何故かが良く分かります。脳は常に愛を参照しながら情報を処理するのであり、「愛」は、脳が持てる力を最大限発揮するためのキー(鍵)なのです。<p>科学の本でありながら、人間や生物に対する慈悲をも感じます。是非、これから子供を持つ方や、小さい子をお持ちの方に繰り返し読んで頂きたいです。<p>なお、筆者は2003年3月にご逝去されたとのことです。<br>先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
著者は「愛」「成長」といった抽象的な概念を抽象でとどめておきません、これ以上具体的に出来ないといった所まで具体的にしていきます。<p>私はこの本を読んでいるときに脳がしびれて、少し吐きそうになりました。著者である松本元さんはとても重要なことを発見してしまったのではないでしょうか。この本を読んでしまった事は、私にとって重要な行動指針となっていくでしょう。<p>科学者がこれまでの愛や成長と言った古くから言われている概念を破壊し、また違う次元に持っていってしまったような気がします。<br>僕の率直な読後感は「創造的破壊」です。<br>一読する価値はあります。人生が変わってしまうでしょう。