「敵」という言葉があります。
<br />本書を読んで、果たして本当に「敵」が存在するのか、と考えてしまいました。
<br />「敵」にも両親、兄弟姉妹、思いを寄せる人などがおり、人間的営みをしております。
<br />実際のところ、「敵」とは権力者側が作り出したイメージ・幻想に過ぎない、と思いました。
<br />この権力者は実体のないに「敵」に向かって、「我々=味方」の若人たちを投入します。
<br />そして「味方」と「敵」の若人たちはただ純粋に名誉ある行動をしていると信じ、
<br />戦場で散っていきます。
<br />「味方」も「敵」も同じ人間である、
<br />というこの世界の原点にやっと到達できた感じがしました。
私は、優れた青春群像ものとして読みました。かっこいい兄貴もいれば、お笑い担当もいる。気弱な主人公が、そんな仲間たちに囲まれて、成長してゆく物語。舞台は戦場であったり、登場人物は兵士であったりしますが、いつ、どこで、だれであろうと、青春を、人生を謳歌することができる。そのことが身に沁みるように伝わってくる。物語は、ときにどんな偉い人の箴言よりも説得力があることを教えてくれる1冊です。それにしても、著者の描写力のすごさ。金原さんの翻訳もリズムがよく、読みやすいです。とくに「あの声」が聞こえてくるシーンでは、あまりの恐ろしさに鳥肌がたってしまいました!
僕はロバート・ウェストールの本に初めて出会ったはずだったのに、読み初めたときに、子供の頃読んだことがあることに気が付いた。国語の教科書に載ってあったのと、たしか図書室で適当に読んだ児童文庫でだったと思う。僕はあの当時、国語の授業がいやでいやでたまんなかったのに、この人の作品を鮮明に覚えていた。それぐらい強烈な作品だったということだ。何をいいたいのかというと、子供に読ませるための本だったら、強烈な印象が残るようでなくては子供の心に残らないのではないかということだ。キレイで清い、分かりやすい作品だけを読まそうとする親がいるが、そんな本ほど心に残りにくいものはない。宮沢憲治の本だって、死の描写があるではないか。世界のほとんどは、キレイでもなく清くもないし、分かりにくい。でも心に残るものはある。この本はまさに、心に残り、必ずその子の血と肉になる本です。お薦めします。