ゲドの物語の序章。誕生から、己が生み出した影との戦いを終わらせるところまでを描く。
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<br /> 全てのものには名前があり、あらゆるものが一つのものにつながっているという考えは、哲学的であった。また、少年の成長物語であり、冒険小説的でもあるが、人生の様々なことを示唆的に書いている点でも、奥の深い内容である。
1冊の本なのに、この本の物語は壮大な話です。本当に、たった1冊の本なのに、この中では大きな話がつねに動いているのです。少年は少年のまま終わると思っていたのですが、この『ゲド戦記』はそうではないのです。
<br />これを読んでいくと、魔術の事とか出て来るでしょう。でも、その魔術のひとつひとつには、強い信念があり、それを魔術師が唱える度に、何かが動くのです。それは、時には本当に小さい事だったり、ものすごく大きな事だったりと様々です。
<br />ゲドが魔法学園で学ぶのは、偉大な事ばかりだと思います。まるで世界の誕生を、そのまま魔法にしたみたいな感じです。ひとりの者は、地球は平ぺったいと思っていますからね(笑)だけど、昔の人も、こんな風に思ったんだろうな、と思いました。私も今より年齢が若かったら、きっと思っていたかもしれません。このアースシーの世界で、“宇宙”というものを知るのは、何年後になるのでしょうか? それとも、アースシーには“宇宙”なんてものがなくて、このアースシー自体が“宇宙”なのかもしれません。だって、こんな小さな1冊の本が、とても広い世界に見えるのですから。この本の中ではつねに、大きな事が起こっているのかもしれません。それは、この物語の主人公・ゲドなのか、その中の登場人物か、はたまた私達・読者達になのか……。
<br />1冊の本で、ゲドもすごく年をとるというのに、私に違和感がないのはどうしてでしょう? 普通のファンタジーの本だったら、少年の主人公が大きくなっていくのに、少しためらってしまいます。ですが、ゲドの場合は、大きな物語に遭遇しすぎているのか、この本を読んで、もう何年も経ったような気分になるのです。実際は短い時間なのに、読み終わった後は、私もゲド達と一緒にいて、過ごして、そんな長い年月をこの物語の中にいるみたいな気分でした。
<br />もしかしたら、読み始めてすぐに、この本の魔法……いえ、もしかしたらゲドの魔法にかかっていたのかもしれませんね。
一巻が一番面白かったです。
<br />魔法を通して、人間の光と闇に対するかなりの深さ、激しさが感じられます。
<br />善VS悪なんていう単純明快さは全くないベースだからこそ、主人公は悪を成敗する勇者でなくて、謎に迫る「大賢人」なんでしょう。
<br />魔法が使えても、アースシーはまさに人間の生きる世界です。
<br />ルンルン気分の時は読みにくいかもしれませんが、ここで伝えられる世界観は現実を生きる上での智恵にも成り得ると思います。
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<br />一つ☆を落とした理由は、死後の世界に対するイメージが暗すぎること。
<br />私は違うイメージを持っていたので、読み進めながらその辺り、私自身が闇に呑まれそうな気分になってしまいました。
<br />それはそれで読みがいがあったのかもしれませんが‥‥。
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