後半は老いたゲドに代わってテナーの存在の方が強く「ゲド戦記」というより、二人の物語のような気がしました。 冒険ものの色合いが感じられるのはゲドが魔法使いとして修行をし、挫折を経て立ち直るあたりでしょうか。 映画にはなかったテルーの傷の悲惨さからも、子ども向けとは考えにくい内容のように思います。 夢と希望に満ち溢れたファンタジーとは全く逆の側にある、常に心の中で何かと葛藤している人間の心理を描いた奥の深い作品でした。
シリーズ全体を通して言えるのですが、引っ張るだけ引っ張っておいて、結末はあっさりしてるなぁという感じです。
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<br />これは!と思わせるようなプロットも特になく、ファンタジー好きとしては少々物足りない気も・・・。
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<br />でも、ファンタジーとしてではなく、一般の文学作品としてとらえれば、十分に面白いと思います。
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子ども向けのファンタジーなのでしょうが、ハラハラドキドキ手に汗にぎる冒険活劇!のようなところはいっさいなく、淡々と物語は進んでいきます。
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<br />世の中に偶然ということはなく、全て必然によって動いている。いま自分がここにあるのも、誰かと一緒にいるのも。誰しもなすべきことをして、物事はなされるべくしておこっている。
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<br />大どんでん返しもびっくりするようなスピーディな展開もないけれど、胸にすうっとしみる物語。子どもの頃に読むのももちろんいいけれど、大人になってから読んでも充分になにかしら感じるものがあります。
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<br />主人公は表題のとおり「ゲド」なのですが、「ゲド」が生まれてから老人まで描写しているところが、ファンタジーとしては名作でありながら異色なのではないでしょうか。主人公が途中でいっさいの魔力を失い、葛藤し、老人になり、普通の男のように女と愛し合うという物語、こんな本を読んだことがありませんでした。
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<br />思想的には西洋的で、東洋人の私にはきっと本質的なところは理解できないかもしれませんが、それでもとてもおもしろい本でした。
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<br />外伝を読むとわかりますが、作者のしっかりと作りこまれたこの世界にも感銘を受けました。だからつじつまの合わないところがないんですね。名作だと思います。