<br /> 灯火書に親しむ…夜が一段と長くなり、窓外も一層冷え込んでくる中、そして何よりも日本の政治状況が寒々としている当節、何とはなしに書棚の奥から引っ張り出したくなるような本がある。それが、この丸山眞男(1914‾1996)の『日本の思想』(岩波新書−青版,1961年)などであろうか…。
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<br /> 実のところ、私が丸山の思想に邂逅したのは、吉本隆明等の「丸山批判」であった。たとえば、60年安保闘争に係る「丸山眞男の見解」は、吉本流に「進歩的啓蒙主義・擬制民主主義の典型的な思考法」(擬制の終焉)だとするなど、今から思えば汗顔の至りといえるような、稚拙な批判意識を持っていたのであった。
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<br /> だが、この国の政治状況が“危険水位”に達しつつある今日、丸山に対する小熊英二らの浅薄皮相な批判的解説をひとまず脇に置き、直に、丸山の残した上質な、かつラディカル(根底的)な思弁に触れるときであろうと考思する。そういった脈絡で、当書はうってつけの書冊であろう。
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<br /> かつて高校教科書にも採用されたことのある本書所収の講演論文「『である』ことと『する』こと」や同じく「思想のあり方について」などは、語り言葉であるけれども、丸山政治学の真髄が平易に述べられており、今もって“古さ”を全く感じさせない。この国は残念なことに、まだまだ「丸山眞男」を必要としているのだ…。
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「大学生必読の書」らしいです。しかし大学生数十人に聞き込みしたところ、既読者はおろか丸山真男の名を知っている人を捜すのに苦労するという結果に終わりました。
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<br />翻訳文のような意味不明な言葉遣いが多々ありますが、全体的には分かりやすく書かれています。特に3、4章は、高校生でも充分読めます。
<br />1章から順に読むよりは、3・4→1→2章の順に読むのをお奨めします。
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初版は1961年。日本の戦後占領期(1945-55年以前)を代表する政治学・政治思想学者、丸山真男氏(1914-96)の岩波新書青版での代表作。本書「III思想のあり方について」が面白い。そして、著者はまさに予見していたかもしれないという意味で、本書65-65頁の次の文章を引用しておきたい。<p>(引用はじめ)<br>多様な争点(イッシュウ)をもった、多様な次元(階級別、性別、世代別、地域別等々)での組織化が縦横に交錯することも、価値関心の単純な集中による思惟の懶惰(福沢諭吉のいわゆる惑溺)を防ぎ、自主的思考を高めるうえに役立つかもしれない。<br>(引用おわり)<p>関心のある方には、上記引用箇所に「けれども……」とつづく文章を、お読みになることをお薦めする。本書「I日本の思想」の結論がそこに書かれている。Web時代に生きるわれわれにとって現代的なテーマだと思う。