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やさしさの精神病理 ( 大平 健 )

「やさしさ」 <br />かつては、 <br />「相手が自分の気持ちをわがことのように <br /> 受け入れてくれたときに感じられたもの」 <br /> <br />いまは <br />「感情の傷つけないこと」 <br /> <br />その結果、相手を動揺させる涙は禁物となり <br />親切そうに気遣いすることが推奨されることになる <br /> <br />決断は、失敗や後悔するリスクを伴う。それは <br />傷つけることになるので、できるだけさける。 <br /> <br />責任を逃れるような言動を選ぶようになり、 <br />自分に確信が持てなくなり、浮き足立つ。 <br /> <br />本当のやさしさは厳しさと同居できる。 <br />自他に厳しくなれる人が本当にやさしくなれる。

岩波新書の新赤版が4月で千点を超えリニューアルされるとのこと。その中で本書は発行部数29万部、16位に位置しているそうです。 <br /> <br />旧来の「やさしさ」と異なる新しい「やさしさ」の出現について指摘したのがこの本です。旧来型が「相手の気持を察し共感することで、お互いの関係を滑らかなものにする」のに対し、新型は「相手の気持に踏みこんでいかぬよう気をつけながら、滑らかで暖かい関係を保っていこうとする」。前者がホットで後者がウォームとたとえられています。新しい「やさしさ」にとって、「コトバはお互いを傷つけうる危うい道具」。だから相手の気持に立ち入らぬよう注意を払いつつ、空疎なコトバを交わすのです。その結果、絆【本来、「きずな」と「ほだし」(=「束縛」)の両面をもつそうです】は希薄になりますが、それは我慢します。束縛は「やさしく」ないからです。さらに「やさしい」人は自分を傷つけることをも恐れて「決断できない」人になり、「いちおう」「とりあえず」と保険をかけ、曖昧な自分を生きる・・・あるいは「自分探し」をする・・・ <br /> <br />再読してみて、約10年前に書かれた内容に違和感を覚えないどころか、状況がさらに顕著化しているようにさえ感じました。「やさしい」関係を保つため、ひっきりなしに携帯メールを打つ若者。ウォームな道具だったポケベルの延長線上にあると思われるメールが、行き過ぎて「ほだし(束縛)」になってしまっている矛盾を感じさせもします。コトバを排除し滑らかな関係を目指した結果、「空気読めよ」という格好のセリフが生まれました。そして「決断できない」人は、ニートの存在を連想させます・・・ <br /> <br />新書ブームの今、10年後も再読に耐えうるものがどれだけあるかと考えると、本書がいかに突出しているか感心させられます。 <br />

文句ナシの5つ星です! <br /> <br />著者は、近年若者の間でやさしさの意味が変わってきたことを指摘しています。 <br />このやさしさの意味の変容は、若者と中年以上の者の間に意識のギャップを生じさせ、互いを戸惑わせます。 <br /> <br />本書はそんな新しいやさしさの中で生きる若者の姿を、まるで良質の短編小説のような見事な筆致で読者に見せてくれます。 <br />「精神病理」というやや硬いタイトルのために、ちょっと敬遠してしまいたくなりますが、それはもったいない!! <br />実際は肩肘張らずに読めますから(笑) <br /> <br />是非手にとってほしい1冊です。 <br />

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