技術の進歩とはうらはらに、およそ近代的とはいえないシステムによって続けられてきた食肉処理。こうした本がもっと出ることによって差別も逆差別もなくなっていくだろうにと思う。
屠場、いわゆる獣肉生産のための解体工場を著者がつぶさに取材した傑作ルポ。われわれにはまったくうかがい知ることのできない内情が詳らかにされている。屠場とそこに働く人々に対する社会的な偏見、抑圧は想像を絶するものがある。みごとな腕と技をもった職人が多数、過酷な労働条件のなかで働いているのにもかかわらず、である。われわれ消費者はこの現状を直視しなければいけない。<br> 著者のルポは徹底的、かつ真摯で抑制が効いており、おもしろ半分の覗き見ルポとは一線を画し好感がもてる。
屠場とそれを取り巻く問題は、食生活という点でわたしたちと遠からぬ関係がありながらも、一般には知ることのない世界である。屠場とは食肉解体工場のことであり、古くから部落関係者がそこでの仕事に従事してきた。現在でも根の深い部落差別問題であるが、この本はその一側面を具体的に浮かび上がらせている。もっとも、深刻な問題ばかりでなく、様々な解体技法の紹介なども多く、教養書としての価値の大きな本でもある。実際にわたしたちの日常を支える屠場の実態は知っておく価値がある。