従来の「極端な丸山像」を修正し、「真の丸山像」を描こうとした本です。
<br />今やっとできるようになった仕事、そして今やらねばならない仕事に
<br />取り組んだ、と思いました。
<br />丸山は日本の「型」・「形式」の再構築を目指しました。
<br />同時に、彼は、西洋で生まれた普遍的な近代思想を
<br />日本に定着させようと努力しました。
<br />ここで浮かび上がってくるのは、「中庸」の政治思想家・丸山眞男でした。
<br />「真の丸山」を描く中で、苅部氏の現在の問題関心も「こっそりと」
<br />顔をのぞかせていたのは評価したいと思います。
<br />ただ植民地主義やジェンダーに関する「丸山の盲点」に関する問題の言及が
<br />なかった、あるいは足りなかったのは惜しいです。
思想傾向として左右両翼から叩かれる丸山真男は、まさに叩かれやすい思想家である。著者は、一面的な見方にとらわれることなく、その言説を根拠として、その実像を追う実証的立場を貫いている。
<br /> 丸山叩きに加わっていないが、「弟の視線」(第4章戦後民主主義の構想)で兄真男の二重人格性に批判的であったことを指摘している。これは一例に過ぎないが、本書は論拠の確かな評伝になっている。
<br /> 戦前から戦後への時代の変転の中で、彼はどう生き、何を問題にしたのか。中学から高校に進んで、左翼学生の運動を身近に目撃するようになっても「そういったことは、おれは卒業したのだ」と思想的にすれっからしになっていた。「異質なもの」を取り入れることに吝かでない彼も特高警察の留置所経験もある。国家権力の抑圧から自由てあろうとする。
<br /> 日本思想の克服、あるいは呪縛からの解放、そして西欧的個人主義思想を視野においての幅広い「リベラリスト」としての種々相が、集約的に、実に手際よく略述されている。
<br />「丸山真男集」全17巻の中から引用されている例文が多く、これは個別に自分で確かめられるようになっていて便利である。熟読したい一書である。
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本書は、丸山真男の評伝の体裁を取っているものの、
<br />同時に、今日の政治・社会状況に対する著者の問題提起の書物でもあると考えます。
<br />主な名宛人は、丸山の生前の姿を知らない世代、
<br />特に高校生、大学生であると思います。
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<br />これからお読みになる方は、丸山の優れた思想や強靭な言論が、
<br />その生い立ちにおいて遭遇した困難、
<br />例えば特高・従軍・結核・安保闘争などに真摯に向き合うことにより、
<br />練り上げられてきたことが実感できます。
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<br />他方、丸山を苦悩させた状況が現在再現されていないか、
<br />また、丸山が捉え切れなかった今日的な問題に対して、
<br />市井の人間はどのように向き合っていくべきなのか、
<br />本書の視線は丸山の死後から現在、未来にも向けられています。
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