同志社ラグビーは関西に住む者にとって、関西的なエッセンスが凝縮されているように思います。その監督であつた岡仁詩氏の指導とはを、考えさせられる本です。4年間で学生に出来ること、教えられる事はそれほど多くはありません。指導法の確立が基点なのでしょう。
<br />私は、個人的に林が好きでした。本当にあの頃世界レベルに達した日本人だったからです。
<br />その後、平尾、大八木などを輩出しています。花園に足を運ぶと西高東低である事がよく解ります。今では、大学ラグビーでも関西出身者が多く東京の大学で活躍しています。大学では、東高西低になりますが残念です。きつい、汚い、危険と3kが揃った中に本当の精神性が磨かれ、それがスポーツの原点のような気がします。
長く、同志社大学ラグビー部の指導者を務めた岡仁詩氏を中心にして、ラグビーの歴史を振り返った本です。
<br />印象的であったのは、岡氏の指導法。「何々せよ」的命令で、長時間のスパルタ練習をさせるのではなく、「何々もあるのでは」的アドバイスと、1.5時間の練習しかせず、練習であれ、試合であれ、後は、学生の自主的な判断に任せるもの。確かに、目前の試合の勝利にこだわるのであれば、前者が効率的なのでしょうが、学生一人一人のその後の長い人生を考え、「わずか4年間のラグビー部体験で得られる物とは」を念頭においた指導法に共感させられます。その指導法が長い目で見て、学生たちに有益なことは、文中で紹介される同志社大学ラグビー部OBに、他大学OBよりも、個性的な指導者たち、あるいはラグビーを離れ、社会人として活躍する人が多いことからも伺えるのでないでしょうか。
<br />ラグビーから、広く「教育とは何ぞや」「人生とは何ぞや」まで考えさせてくれる良書。
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泣き虫先生こと伏見工業・山口、土佐犬のような風貌の三洋電機・宮地、ラグビー界のインテリジェンス・平尾。一時代を築いた名将達。日本代表SOにしてワールドの頭脳・松尾、荒武者にして誰もが知る名ロック・大八木、誰よりも好きだった「壊し屋」・林。胸を躍らせてその身体の動き、まなざしを食い入るように見つめた名選手達。これらの人たちはみんな岡仁詩からパスを受けたんだなあとしみじみ感じ入る。カリスマ・明治の北島と比肩するほどの指導力は、しかし、深く静かに人々の心に染み渡る。「サムシング・ディファレント」「自由」という言葉に象徴されるこの人物は人に自らの考えを強いず、常に選手達に考えさせ決定させる。「自由」のリスクを引き受け、「自由」の素晴らしさを表現させる。それは時に愚直で血反吐を吐く思いも経験し、時にトリッキーで下手すれば周囲の失笑を買いかねないが、今のラグビーを観ていて、いまひとつ熱くなれないのは、悪い意味でシステマティックでリスクを取らない「お上品」なゲームが多いからか? 面白いラグビーとは、野球やサッカー以上に泥臭く、汗臭い中で、必死に考え、様々な障害を潜り抜けようとする「あがき」にあると思えて仕方ない。そういう意味で、岡仁詩のこの評伝は熱く滾る思いを思い出させ、現在のスポーツ、ひいては社会全般にはびこる「お上品さ」を打ちのめす力が秘められている。折にふれ紹介されるエピソードも心を打つ。三洋の宮地が岡を訪れた話は特に印象に残っている。