多数ある格差社会関係の書籍の中で、労働力の視点から同問題を論じた本書は画期的である。規制緩和から始まった労働のダンピングを詳述したうえで、どのように克服するかの処方箋まで、海外の例などを挙げつつ示している。すると驚くことに、格差社会や二極化、少子化、機会不平等、男女差別などといったキーワードが密接にリンクしている現状が浮かび上がってくるのである。本書の最大の特徴は、労働ダンピングという一見個別性や専門性の高いと思える問題が、実は上記のキーワード群の根底に沈潜し、社会を侵食している様を描いトいることにある。労働の市場化によって労働力のダンピングがすすみ、非正規雇用だけでなく正規雇用も低廉化、溶解していくとの指摘に、読者はどうにも避けられない当事者意識を喚起させられるであろう。今ほど格差社会などと言われていなかったころ、わたしは「子育ては金持ちの道楽になりつつある」と周囲に話したことがある。その時は驚かれると同時に眉をひそめられた。だが今となっては、出生率の低下という具体的な数値となって現実に反映されつつある。テレビなどをみれば、そうした状況への無理解が相変わらず横行し、「正規雇用されない若者はけしからん」とか、「医療費を払わない、給食費を払わない人々の良識を疑う」などという論調がなんの検証もなされずに幅を利かせている。こうした事象の裏に潜む根本的な原因に焦点を当てて切り込んだ本書は、格差関係の類書の中でも異色かつ抜群の一書であろう。
「下流社会」「若者はなぜ3年で…」を読みこの本も読みました。
<br />派遣社員、契約社員、そして正社員への厳しいプレッシャー。
<br />私の職場にも「自爆」があることから、なるほどととても納得できる内容でした。
<br />法改正の裏にこんな思惑があり、現実はこう変わっているのかと
<br />とても意識を高く感じさせられました。
<br />
<br />その一方、世界的な市場の統一、労働市場の統一からのプレッシャー。
<br />これにどう対応していけばいいのか、など少し不鮮明な気がしました。
<br />いわゆるグローバリズムに対し、どう考えていくのか
<br />そこが読み取れず、国内問題にのみ焦点をあてている気がしました。
<br />
<br />また、作者の立ち位置も明確でなく、いわゆる学術的な論述が多く、
<br />迫力がない気もしました。
<br />自分はどんな身分でどんな考えでどんな行動をしているのか
<br />そんな作者の立ち位置が読み取れませんでした。
<br />客観的な論述ということになるのかもしれませんが
<br />そこが鮮明になる方が私は説得力が増すように思います。
<br />
<br />公務員宿舎廃止の意見を言いながら
<br />自分はこっそり愛人と公務員宿舎に暮らす
<br />学者もいたりしたのですから。
<br />
<br />考えとともに行動の座標軸も表してもらいたいと感じました。
正社員並みの効力を発揮し、正社員を駆逐する非正規労働。
<br />企業にとっては究極の調整弁ともいえる「日雇い派遣」。
<br />本書では、こうした「労働の商品化」の横行に
<br />「ちょっと待った!」と訴えています。
<br />
<br />日本企業がILO原則を反故にしていることはわかった。
<br />正規・非正規間の待遇差別が女性蔑視(少し異なるが)に起因していることもわかった。
<br />これへの対策は?また、現実策をいかにしてとればよいのか?
<br />その点が明確になっていないので、あえて☆4つと厳しく評価です。
<br />
<br />一度非正規を選ぶと、そこからは逃れられない現実。
<br />これは「自己選択の結果であって、お前が悪い」で済む問題でしょうか?
<br />こうした私の考え方すら今のご時勢では「甘い」とみなされるのでしょうか?
<br />「いまの雇用環境、絶対どうかしてるよ!」としか思えないのですが、
<br />これもおそらく「甘え」とみなされるのでしょうね。
<br />
<br />本書を読んでひとつわかったこと、それは、
<br />「登録型派遣については、司法は決して助けてくれない」
<br />ということ。
<br />10年間正社員と同様の仕事をこなしてきて、
<br />たとえ不当な解雇をされても、何も文句はいえません。
<br />正社員と仕事内容は同じ。異なるのは雇用形態のみ。
<br />ここまで非正規労働の価値が認められないとは…。
<br />なんとも素敵な世の中ですね、ホント。
<br />
<br />したがって現実策としては、
<br />「派遣で働きたいのなら、せめて常用型派遣にしとこう」
<br />ということになりますが、中途半端な脳みそしかない私にとっては、
<br />これ位しか策が思いつかないのが実情です。