岩波新書では久々のシリーズ物。
<br />幕末維新編は、NHKのシリーズで紹介された「明治」の裏読みとしては資料を整理したものとして読むと面白い。今現代史が見直されていることと併せて、現代史の反面教師として読むと一層あの時代がなんだったかがわかる。多くの人が多分「書評」を書くだろうからあまり内容には触れないで置くが、ペリー来航とマッカーサーの厚木到着を重ねあわせると現代がわかる。
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岩波新書シリーズ日本近現代史第一巻。
<br /> 「維新史の見直し」を標榜する本書の主張は以下のようなものである。
<br /> 江戸時代は、俗に信じられているような、遅れた閉鎖的な社会ではなかった。より豊かで平等な社会であった。また、幕末の欧米列強による日本の植民地化の危機も、誇張されたもので、さほど深刻なものではなかった。よって、薩長新政府による天皇を中心とした国民統合や東アジア外交も、必然性のあるものではなかった、というものである。
<br /> 欧米列強による植民地化の危機から日本守るために幕末維新の革命が起こり、自存自衛のために東アジア外交を展開したとする伝統的な保守的・右派的な近代史観への岩波的なアンチテーゼであり、その意味においては特に目新しい点はない。新書という形式上の制約もあるが、とりあげる事件や解釈もその史観に沿っている。
<br /> ともあれ、新書ながら、全十巻という長いシリーズであるから、どのような日本近現代史が展開し、完結するのか見守って行きたい。
最新の研究によって、欧米とは違った形ではあれ、近代化に必要な勤勉さを重視するモラル、規律や衛生といった文化は江戸時代に成熟していた、ということを前提に、江戸幕府の役人も十分ハードネゴシエーターであったという指摘は新鮮。幕府も決して欧米に屈服したわけでなく、関税自主権がなかったということだけをとらえて不平等条約の不備を指摘するのはあやまりで、外国商人の居留地以外での商行為を禁止したおかげで、横浜に関東各地から生糸商人がドッと押しよせるなど、内側から貿易を定着させたことで国内市場を守ったという側面も見逃してならない、と力説します。また、片務的領事裁判権の問題にしても《もし外国人に幕府の司法を適用するという事態になれば、欧米からの日本の司法に対する観賞ははるかに激烈であったことが容易に予想され》ると評価しているのもなるほどな、と(p.46)。
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<br /> 痛快だったのは、ハリスがアメリカは非侵略国であり、「がさつの聞こえある」イギリスがアヘンを持ち込む心配もあるから、アヘン戦争に加担していなかったアメリカの庇護に入ったらどうかという提案に対して、幕府の勘定奉行たちはオランダ別段風説書や漢訳された洋書などをつぶさに調べ、アメリカがメキシコ戦争でカルフォルニアを掠取したことや、米国商人がトルコのアヘンを毎年、大量に運んでいることなどを指摘、老中たちに意見具申しているあたり。どこぞの政府とは大違いですな。幕府高官に大統領親書を渡すために強硬上陸してきたペリーに「国にはその国の法これあり」と応じて拒否した地元の与力も見事に近代的な応対ぶりですよね。