タイトルを何にするか、書名を決定するにはさまざまな思惑があるだろう。はしがきからすれば、「お墓」とは何か。これが書名にならなければならない。次に、本文内容が4章あって「お盆の儀礼から何が見えるか」「葬送儀礼と墓」「〈お墓〉の誕生」「夭折者の墓と〈お墓〉」であるから、第3章だけが書名と一致していることになる。
<br /> 本文内容は実にきめ細かく民俗学的資料を駆使してさまざまな例示が興味深く挙げられている。「迎え火・送り火」「盆棚」「霊肉分離・両墓制」など全国の各地の実例写真入りで紹介されていて、参考になるところが多い。
<br /> さて、本当に一番言いたいテーマは書名に象徴されているかどうか。私見では、著者はいろいろ言いたかったと思われるが、一番言いたかったことは、この4章「起・承・転・結」の「結」ではなかったか。ここでは「子供の墓」と「戦死者の〈墓〉」に言及している。「靖国神社をめぐる誤解」に収斂していることに注目しなければならない。著者には別著「戦死者霊魂のゆくえ」がある。
<br /> 巻末「むすび」になって、やっと疑問点は解消される。
<br />「お墓」が誕生したことにのみ問題があるのではなかった。こう言ってくれているので、なんとか納得できる。歴史的に見て、今は多重祭祀、重層性にあることを指摘してくれていて、それは難問ではあるが、我々の抱えている大切な現実問題として、しかと受けとめたしだいである。
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「お墓」にまつわる常識、それも世間一般というよりも民俗学的な語りの中に残る常識の当否を、豊富な事例に基づいて論じている。いわゆる「両墓制」を前提として語られることを一つ一つ覆していくくだりなどは読み応えがあって興味深い。
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<br />現在のお墓のあり方は、想像以上に歴史を遡れないものらしい。そのさらに昔、人々は死者祭祀に何を見ていたのか。何気なく通り過ぎることもある、古びた「お墓」への関心がかき立てられる一冊と言えよう。