京都を歩くというのは何と贅沢な楽しみだろう。私はこれまで十数回、京都を訪れたことがあるが、歩いて回ったことはなく、タクシー、地下鉄、バス、レンタカーで慌ただしく名所旧跡を回るのが常だった。これでは京都を味わうことはできないと常々思っていたが、仕事を持っている身では歩く時間を捻出するのは現実的に不可能である。<br> けれども、いつかはゆっくりと京都を訪れたいという思いは今も変わらない。<br> 同書は、京都を歩くという贅沢を写真と文章でふんだんに盛り込んだ、貴重な一冊である。「ピンポイントの観光」よりも「連続した観光」を勧める著者は、名所の途中にも、いや途中にこそ京都の素晴らしさがあると説く。空間と空間をつなぐ連続した変化は、建築や都市設計に携わる者の発言であり、なるほどと思う。<br> 東山、嵯峨野など、全部で9つのコースが紹介されており、写真や地図にも視覚的な配慮が見える。すべて歩いて回りたいと感じさせる屈指の京都案内である。
環境建築家によるこれまであまた出ている京都案内とは全く異なるガイドブックです。自身も京都出身の著者は、京都観光がマイカーやタクシーを利用して、いわゆる名所を単に移動して回るだけの「ピンポイント観光」になっていることを残念に思っており、名所と名所の間にある空間にこそ京都の素晴らしさがあるのではと考え、そのような京都らしい空間を味わえるコースを9つ選定し、紹介しています。コース名を見るだけでも、「鴨川を自転車で走る」「洛西の小都市御室を歩く」といった魅力的なものになっており、その空間の魅力を、簡潔な文章と美しい写真で紹介しています。新書ということで写真の大きさ自体は小さいのですが、神社を流れる川、川に掛かる橋といった環境建築家ならではの非常に魅力的な物件・空間が掲載されており、写真を眺めているだけでも楽しめる本です。<br>次の京都散策には、この本に掲載されたコースをそのままたどりたくなってしまう、京都ファンにお奨めの本です。