カラシニコフという銃を狂言回しに今の世界が抱える問題を語っている。
<br />中国人民解放軍の国営武器企業が南米コロンビアのゲリラに銃を売りさばき、
<br />パキスタンの辺境には密造銃の村がある。
<br />丹念に取材された、そんな一つひとつのエピソードは実に衝撃的だ。
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<br />さまざまな民族や宗教・言語を抱えるイラクもアフガンも、近代国民国家としての統一感がなくても、民族や部族、宗教を中心にした同心円の自治州に分解すれば、その円の中では秩序が保たれているという筆者の見方は、ありきたりな見方かもしれないが、説得力をもつ。
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<br />惜しむらくは、新聞の連載記事のまとめのため、読みやすいのだが、やや深みにかける点である。連載記事を単行本化する際に、新聞のように一文を短くせずに、もっとディテールを飾った長文にしてもよかったのではないか。
前作『カラシニコフ』から2年、松本氏の体を張った旅の続きです。これをまた本で読めるのはうれしい。
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<br />今度の旅は、南米コロンビア→アメリカ合衆国→パナマ→パキスタンの銃密造村→アフガニスタン→占領下イラク、というルート。著者が得意とするアフリカではなく、「麻薬」「対テロ」という、今もっとも熱い戦争が戦われている地域です。
<br />貧困ゆえにコカイン密輸ゲリラに身を投じる若者。彼らが手にした中国製「ノリンコMAK」という怪しいAKを追うと、なぜか合衆国の銃器通販業者に至る。ペルーの日本大使館占拠事件の裏にも密輸AK。
<br />パキスタンのパシュトゥン部族地域ではAKのコピーが手作りされている。コピーだけど職人の誇りがこもってます。なんだか明るい。カイバル峠を越えたアフガンでは、米軍主導の下AKで新アフガン国軍再建が進んでいる。フセインのいなくなったイラクでは…。
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<br />前作ではAKの運用実態を通して「失敗国家」とは何か、を考えました。本作ではAKが大量に流通する裏に「中国・アメリカという大国の影」を発見します。超大国が失敗国家を食い物にしている(AKの金額は微々たるものだが)。
<br />パキスタンの密造村は、なんだか読んでてホッとします。物作りの現場というのは、たとえそれが密造AKでも、魅力的に見えるんですね。いいのかこんな感想で。ここやアフガン、イラクは「国家以前の部族社会」です。でも部族社会はそれなりに安定している。再建中のアフガン国軍の若者たちの話も楽しいのですが、この先に絶対、統一国家と部族社会が衝突するだろうと予測できるだけに、「国家って…?」と根本的な疑問を持ってしまう。考えさせる本です。
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<br />前作の、最後に環が閉じてきれいな円を描くような見事な構成とは違いますが、やはり読み応えがあります。そして、今作もちょっと登場するカラシニコフ氏が、とても微笑ましいです。