知人にこの本の評判を紹介され早速購入し味読した.大学助教授としての経験,都会の有名病院の外科系臨床家としての実践の現場から医師の置かれた危機的状況を鋭く指摘した内容である.司法,医療行政当局,大学医学部,マスコミの現場医療に対する無理解の構造と,こうした現状に対して反論や抗弁することもなく黙々と日々の臨床をこなさざるを得ない医師の立場を代弁している.この匿名のレビューの数の多さをみても本来医師は雄弁であるはずだ.しかし医師は批判を覚悟で公の場での意見表明を行おうとはしてこなかった.むしろ自分の殻に閉じこもりがちである.「立ち去り型」というより「引きこもり型」サボタージュという点も問題にして欲しかった.次作では医療人(看護師なども含めて)の姿勢に対する問題提起もして欲しい.著者の指摘しなかったことに学会の旧態然とした体質もある.問題山積であるが,私自身は日本の医療の将来にそれほど悲観的ではないことを付け加えておきたい.
慈恵医大青戸病院事件をきっかけにして、日本の医療の崩壊を危惧した著者は、病院という医療の現場から、日本の医療の問題点を考えた。視点を、医療界のみならず、マスメディアや司法の立場に移し、医療界やその周辺の重層的な構造を浮き彫りにしている。無理な安全要求などで、医師はリスクの高い病院診療から離れ始めた(立ち去り型サボタージュ)。こうした背景を、著者は、立ち入って考察し、その対策を緊急に提案している。日本の医療の現状と問題点が明確になる好個の書物。
都会の大学病院に勤務している現役勤務医としては、現状はさらに悲惨です。知人の同業の一地方で開業している医師に聞いても、
<br />その地方大学の医局も同様で、医局崩壊がすすんでいます。
<br />医局崩壊がすすめばよいのかというと、そう簡単ではありません。何のシステムも存在しない、無策な状態です。この本には書いていませんが、民間医局と称する、勤務医を食い物にする新手のベンチャー企業の出現、使えない電子カルテの問題、急速に進歩して高額になる最先端医療機器、またその医療機器を販売する企業にもてあそばれる医師たちの問題、地方自治体の赤字のため過疎地の地域医療に熱心な医師が現場を去っていく現実など・・・・。この本に語られていない問題はまだまだあります。現場の医師としては、すでに医療崩壊はある程度進んでいるとみて間違いないでしょう。しかし現政権の教育、財政、年金の問題重視の内閣布陣の人事の中、医療崩壊を食い止めることができるのでしょうか?われわれとしては一日も早く、この崩壊スパイラスからの脱却に光をあててくれることを祈っています。もはやわれわれ医師だけで解決できる問題ではありません。