ナショナリズムという迷宮―ラスプーチンかく語りき みんなこんな本を読んできた ナショナリズムという迷宮―ラスプーチンかく語りき
 
 
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ナショナリズムという迷宮―ラスプーチンかく語りき ( 佐藤 優 魚住 昭 )

 この年末は佐藤優という人の著作に嵌っているところだ。本書もその中の一冊である。 <br /> <br /> まず 佐藤の博覧強記ぶりに驚くしかない。論点を説明するにあたって取り出してくる題材が ことごとく意表を突いたものになっている。対談相手の魚住昭が そのたびに驚きの声を上げている場面が むしろ楽しいくらいだ。正確に 対談で 魚住が「えっ?」という声を上げていることが そのまま「えっ」と書いてある。「えっ」という言葉が何度も書かれている対談集は小生は寡聞にして知らない。勿論 それは佐藤と魚住の「作戦」だ。相手の「作戦」には「乗る」 というのも一つの姿勢なのである。  <br /> <br /> 僕としては大変勉強になったわけだが 一番頷いたのは最後の部分である。佐藤は言う。 <br /> <br />「絶対に正しいものはあってもいいんです。但しそれは複数あるんです。しかもそれら複数の絶対に正しいことは権利的には同格なんです」 <br /> <br /> この言葉がいかに僕らにとって 難しいものなのか ということである。これが出来ないことで 一体 何百万人、何千万人の人間が死んできたことだろうか。 <br /> <br />

この本を読んで感じたのは粗筋が既刊本と重複しているということだ。 <br />ハッキリとした重複ではない。 <br />しかし例えば国家は必要悪と言う考え方などは過去佐藤氏の本で、 <br />何度も登場したフレーズである。 <br />新自由主義はダメと言うのも佐藤氏の本に必ずといっていいほど登場する考え方である。 <br />全体的に、部分部分で考えが既刊本と重複している。 <br /> <br />対抗思想や丸山眞男を批判したくだりは初出で面白い。 <br /> <br />佐藤氏の著書をある程度読んでいて、さらに少しでも氏の考えを知りたいという人には良いかも知れ無いが、まだ佐藤氏の本を本格的に読んで無いという人には国家の自縛のほうが簡潔にまとまっていていいだろう。

佐藤優は真性のインテリである。評者は、サルトルに匹敵するような知性を彼に見る。サルトルが、ある時期から揶揄の対象になったということはここでは関知しない。評者はサルトルの知性を20世紀最高のものと考えている。 <br />本書は冒頭の「思想とは何か」を問う言説だけでも価値は高い。 <br />思想とは、例えばこうしてウェブ上でごちゃごちゃつまらぬことを書き散らしているその行為の意味を疑いもしないという、無意識的な現実肯定そのもののことである。『ウェブ進化論』を無条件に信じること、それが思想というものだ。佐藤はこの韜晦気味の言い方を、もっとシンプルにもっと分かりやすくやっている。そして、ジャーナリズムやアカデミズムが、いかにも「思想的な活動」として自他共に認めている当のものは、「対抗思想」というものなのだ。佐藤のスタンスを一言で言えば、「すべては疑いうる」という輝かしい標語が相応しい。この指摘には、ほとんど『ドイツ・イデオロギー』を読んで以来のオドロキを抱いた。これほど、人間の社会や意識や言語を闡明する言葉は稀有なのではないか。 <br />もうひとつ、少し驚いたのは対談相手の魚住昭の謙虚さである。ジャーナリストとしてトップに位置する魚住が、何の衒いもなく虚心に佐藤の話に耳を傾けている。この率直さ、無私の精神には改めて尊敬の念を抱いた。

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