司馬遼太郎の『街道をゆく』シリーズを初めて読んだ。随筆として書かれた本シリーズは、多少とりとめない印象を受けるが、丁寧に読むと上質のヨーロッパ文明論であることがわかる。数多くの歴史小説を書いた著者だけあって、歴史上の知識の豊富さは驚くほどだ。著者の歴史小説は、ほとんど日本か中国が舞台だが、ヨーロッパの歴史についても大変くわしく、司馬史観と呼ばれる文明観に基づいて、単なる教科書的な知識ではない本質的な理解に達しているということを改めて感じた。例えば、同じヨーロッパの中でも、フランスのように料理文化が発達している国と、イギリスのようにそれほど美食を追求しない国があるのが不思議だったが、なるほど、その違いは彼らの宗教観の違いからきていること、また17世紀オランダを代表する画家レンブラントの絵が非常に写実的なのは、当時のオランダ社会の主流を占めていた商人の考えかたからきていること、そして同時代の画家ルーベンスが、まったく違った作風の絵を描いたことを、カトリックとプロテスタントの違いから説明していること等への著者の説明に納得できた。そして、商人の国だった17世紀のオランダこそが、現代に通じる資本主義的考え方そして株式会社等の組織の起源だったことを理解することができた。歴史を振り返れば、オランダは江戸時代に外交関係を持っていた唯一のヨーロッパの国であり、我々日本人に大きな影響を与えた存在だったことを改めて思い出させてくれた。
司馬遼太郎の本は実は、私にとっては少し読み難く敬遠気味だったのですが、なぜか街道シリーズには嵌りました。その中でも、この本が秀逸です。オランダと言う国は、本当に変わった歴史的背景を抱えて何とかやって来ているという感じなのですが、同書には噛み砕いた表現でこの国の事が書かれています。これも、司馬史観の賜物なのでしょう。オランダは私も大好きな国です。同国へ旅立つ時には、ご一読を。
日本が鎖国して時代にも通商が認められた元祖商人資本主義の国オランダ、英仏西独と次々に戦争を仕掛けられても、レイシズムに陥らなかった、そんな偉大なる小国主義を著者が旅行し、その魅力を生き生きと描いています。オランダを旅行する前に必読書でしょう。それに、あんな小さな国なのにどうしてサッカーが強いのかというのも頷けるような気がします。