オビも著者近影もブスッとした表情で、「とっつきにくそー」という第一印象でしたが、内容は至って謙虚で、ユーモアが溢れていて、すごく良い読後感でした。
<br />全6章のうち、第1章「制作のこころ」は圧巻でした。超一流画家の「制作のこころ」ですから、読んで絶対に損はない。読んでいるこちらも集中力が高まっていくのを感じます。それは芸術のみならず、広い分野に対して素晴らしい示唆に富む内容です。
<br />それに比べると中盤は正直言って「ちょっとなー」でした。
<br />しかし最終章「芸術のこころ」が、俄然おもしろい。一番腹にドスンと来たのは、モネが自宅の至る所に何百枚という浮世絵を飾りながら、応接室には一枚も掛けていなかった理由について、著者が考察するくだりでした。
<br />これほどまでに、自分は今の目標に対して思い入れていただろうか、思わず反省しました。
画家という全く自分とは違う世界の人が、どんな生活をしたり、何を考えたりしているのか、といったことが素直に綴ってあります。「教育」「経済」「暮らし」といったカテゴリーも俗っぽい話があって興味深かったのですが、何と言っても「制作」「芸術」のカテゴリーが秀逸です。例えば、「絵を書くときの順番」とか「一枚の絵を描くのに要した時間」とか「抽象画の鑑賞の仕方」といったパートは、プロの生の声を聞くことが出来て、大変面白かったです。皆さんも興味を惹く話ですよね。
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<br />絵が好きな人は勿論のこと、別世界のプロフェッショナルの意見を伺うという観点からもオススメの一冊です。私は、弟の千住明さんのCDを聞きながら読破しました。
千住さんの「絵を書く悦び」「美は時を超える」も、とても面白かったのですが、本書は朝日新聞の読者からの質問に答える形をとっているので、芸術の話だけではなく、ニューヨークでの暮らしぶり、家族、映画など多岐に話がわたっていて新鮮でした。何の話になっても、必ず絵の話の戻るものが多く、この本で初めて知った有名な画家のエピソードも多くあって、“タイムマシンの乗って、過去の画家に会いに行くとしたら、、、”という話があるのですが、モネやルノワールやマチスの身の回りの世話をしてまわる千住さんの姿がありありと浮かんで大笑いしました。