単に「情報力」をいかに高めるかというハウツ−に留まらず、
<br />ジャ−ナリズムの今日的な役割にも及ぶ興味深い一冊です。
<br />IT社会が進展する中で、
<br />新聞を中心とするジャ−ナリズムに求められ社会的役割を
<br />著者はこうコメントしています。
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<br /> ・情報の価値を瞬時に見極め評価する<編集力>
<br /> ・それを裏付ける<取材力>
<br /> ・ウェッブにはない情報を構想する<構想力>
<br /> ・現実の世界から情報をつかみ分析し伝える<分析力>
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<br />そんな中で印象に残ったの一つは、プライベ−ト情報管理。
<br /> ・将来の情報を管理する「手帳」
<br /> ・日々の客観的な出来事を記録する「備忘録」
<br /> ・思いつき・感情を記す「落書き帳」
<br /> 「手帳は将来の情報管理には役立っても、過去の情報管理には向いていない」
<br /> との言い切りは、なかなか的確な指摘とうなずきました。
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<br />今ひとつは、知らない町に行ったら・・・どうする?
<br /> 「いま、ここに」にいる自分の位置情報の基本は地理と歴史。
<br /> ・地理→地図を手にして観光バスに乗る
<br /> ・歴史→小学校の郷土史の副読本、町の郷土博物館
<br /> これから旅行や観光に出かけたときのちょっとしたヒントになりますね。
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新聞製作の最前線で抜いた抜かれたのきわどい商売をしているとは思えない、実に穏やかで落ち着いた精神と、透徹した深い洞察力を感じさせる。文章もとても味わいがあり、かつ平明だ。
<br /> 著者は決して特ダネ記者ではなかったのだと告白する。確かに物事を見る視点や切り口、分析力で勝負するタイプだったのだろう。付け加えれば、朝日新聞屈指の名文家と言っていい。
<br /> 情報の扱い方を語ったこの本は新聞記者の仕事の一端というよりは、情報機関の有能な分析官の秘伝のノウハウすら想起させる。トム・クランシーの小説の主人公ライアンのような人物像を思い浮かべてしまった。
日本語の情報に相当する英語にはご承知の二つがある、すなわちinformationとintelligenceである。新聞社が扱う情報は、どちらかというと後者である。前者は日常的に誰でも使っているが、近年情報リテラシーと呼ばれて教育面で強調されている。これは印刷など記録保存のメディアのみならず、インターネット上の情報資源検索を視野に入れたことで重視されている。
<br />さて、本書は実は後者のintelligenceをどうのように精確に確定するかというテーマで書かれている。informationとintelligenceの差異を精確に知る必要のある方は、大森義夫著「インテリジェンスを一匙」をお読みいただきたい。大森さんも書かれているが、社会がどのように動こうとしているのかを知るには新聞の記事だけで十分と内調時代の情報収集と分析を振り返っておられるが、その新聞情報を仕上げる立場書かれているのがまさに本書である。すなわちテロ情報などは情報機関のみならず報道機関も独自の調査をしている。この調査が取材なのである。この取材でえた情報をどのようにさばき、記事に仕上げてゆくのか、その要諦を5つの基本原則として最初に提示し、実体験を踏まえてまとめ上げたのが本書である。基本原則は我々の日常生活でも活用できる情報処理原則でもある。情報intelligenceは操作される面もある、これらの複雑性をいかに平明化し、裏づけのある情報にして使うか、そのノウ・ハウを著者のみならずCIAで実務経験をもった人へのインビューなど精緻な取材と思考の産物である。一読をお薦めする。
<br />尚、著者は芥川賞受賞者でもある、端正な文体はその実力のとおりである。