実はこの本、村上春樹の『アンダーグラウンド』と同じ主題を取り扱っているのではないだろうか。
<br />『アンダーグラウンド』のあとがきに、こんなくだりがある。
<br />―――――
<br />もしあなたは自我を失えば、そこであなたは自分という一貫した物語をも喪失してしまう。
<br />物語とはもちろん「お話」である。「お話」は倫理でも論理でも哲学でもない。それはあなたが見続ける夢である。
<br />その「物語」の中では、あなたは二つの顔を持った存在である。あなたは主体であり、同時にあなたは客体である。あなたは物語を作る「メーカー」であり、同時にあなたはその物語を体験する「プレーヤー」である。
<br />あなたは、固有の自我というものを持たずして、固有の物語を作り出すことはできない。
<br />だれかに固有の自我を譲り渡した瞬間から、あなたはその譲り渡したそのだれかから、新しい物語を受領することになる。
<br />(中略)
<br />混沌とした世界でヒーローが正しいあり方を模索する物語を書くこと、それが私のテーマです。
<br />―――――
<br />いまの社会、固有の自我を失う危機には、不自由しない。
<br />あわただしく過ぎ去る時間、自我に迫りくる数々の他人の詮索、さらに外界では、いつでもだれとでも繋がれる携帯電話、メール、それにおびただしい娯楽、エンターテイメント。
<br />固有の自我を譲り渡す相手にも、不自由しない。
<br />密接な友達関係に、会社、地域、それに地域社会に世間体、さらには国。
<br />そんな社会で、いかに「固有の物語」をつむぎつづけるか。
<br />その武器のヒントが「web2.0」「ヒューマン2.0」のなかにある。
<br />人生という「物語」の中で、物語を作る「メーカー」でありつづけ、同時にその物語を体験する「プレーヤー」でいつづける秘策が、ここにある。
<br />
この本の一番最初の見所は、裏表紙の著者の顔写真だと思う。
<br />
<br />古いのか新しいのかわからない感じの、
<br />ちょっと不気味な笑み。
<br />ジョークなのか真剣なのか、
<br />判断しかねる。
<br />(そこが変に興味を引くのだが。)
<br />
<br />しかし、シリコンバレーにいる人は外見にとらわれないということだから、
<br />外見は気にしてはいけないのかもしれない。
<br />内容のほうは面白いと思うので。
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<br />写真は、外見に惑わされるなということの暗喩なのかな?
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<br />
<br />本書は、
<br />シリコンバレーで働く人の働き方を描写しながら、
<br />働く、
<br />という事に対する視点をヴァージョンアップしてくれる。
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<br />
シリコンバレー的生き方の紹介ではあるが
<br />万人に向けてそれを推奨しているわけではないことには
<br />注意しなくてはいけない。
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<br />読む人によっては、ブログ向けの砕けた文体とあいまって
<br />いささか鼻につく内容かもしれない。
<br />そう感じてしまうのは自分の中のコンプレックスというか
<br />負け組根性の裏返しであることは認めなくてはいけないのだけど…。
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<br />
<br />ごく客観的に異文化を知るというつもりで読めば、大変に参考になる本である。