マスメディアにありがちな抽象的で一般化された、無機質で記号のような世界情勢の海から離れるにはもってこいの良書。筆者の体験からは、自分自身がいかに無知であるかということを数多く思い知らされる。文体も癖がなく読み進めやすいことも広く読まれている一つの理由かもしれない。ただ、筆者が海外特派員として保護された状況下での取材のためか、あくまで一人のジャーナリストとしての立場から結果的には脱しておらず、作品全体としてみるとやや凡庸な感も否めない。
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いろいろな国の、いろいろな人生を背負った人々。彼らが何をどう食べているのか、「食」に関する、ルポルタージュ。筆者自身の、何年もの旅を通して、現地の人々の、「生き様」を通して「食」を、そして「食」を通して「生き様」を描いている。
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<br />衝撃的な内容あり、今の自分について振り返って考えさせられる内容ありで、お勧めの1冊である。
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<br /> 辺見庸の作風は、鳥瞰的、抽象的、客観的ではなく、虫瞰的、具象的、意志的である。当書は、世界の人びとの「食う」という根源的な営みに自らの肉体を投じ、その「食う」という行為を通じて、世界各地に存在する「悲劇」の現場を息苦しいまでに描出している。
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<br /> 辺見は実際、「噛み、しゃぶる音をたぐり、もの食う風景に分け入って、人びとと同じものを、できるだけいっしょに食べ、かつ飲むこと」(旅立つ前に)を己に課し、この想像を絶する峻烈なインパクトをもったルポルタージュを完成させ、私たちに突きつけた。
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<br /> 彼は、ダッカの残飯、ミンダナオの人肉、チェルノブイリのボルシチなどで、飽食の時代を生き、偽りの平和の中で惰眠を貪る日本人に対して強烈な揺さぶりをかける。辺見の提示した現実は実に重たいのだが、若い人たちには是非とも読んで欲しい作品の一つである。