読み終わってすぐ口をついた一言目が「面白いなぁー」
<br />読んでいるときにバシバシ笑えて、読み終わって満腹な気分になって、
<br />ずいぶん経ってからまた「あの本面白かったなぁ」としみじみ回想できる本なんて、
<br />そうそうありません。
<br />特にすごいのが新興宗教「腹ふり党」
<br />腹ふって、国滅ぶ。
<br />家でひとりで腹をふってみたくなること間違いなしです!!
<br />うっかり腹をふっちゃった人は「町田党」です。
あの町田康が、時代小説を書いたというのがまず驚き。
<br />そして実際に読んでみて、ちゃんと時代小説の体裁を取りながら、どこまでも自由にはみ出していく自由奔放さが痛快でまたまた驚いた。
<br />時代劇なのに平気で横文字が出てくるし、後半はSF化するし・・・。
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<br />序盤、持ち前のだらだらしたストーリー展開で、一体話がどう収束するのか心配になるが、後半の怒涛の展開で、一気に終焉へと突き進む。破天荒な終盤は、まさに筆者のやりたい放題。
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<br />誰かに似ているようで、誰にも似ていない、筆者だけの切れ味鋭い小説作法にますます磨きがかかって、これから一体どんな小説を書いてくれるのかが楽しみです。
時代劇とSFが合体、そこに町田康の小説でおなじみの自己愛過剰の人々が入り乱れて、
<br />最高レベルにぶっ飛んだ作品となっています。
<br />しりあがり寿のマンガ「真夜中の弥次さん喜多さん」と双璧の傑作超時代物と言えましょう。
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<br />様々なパロディが散りばめられていますが、音楽好きの私としては、
<br />腹振り党の乱痴気騒ぎがライブハウスや野外フェスでの熱狂に重ねられているところに
<br />爆笑(そして、少し冷や汗)しました。
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<br />ところで、今回は、これまでのような一人称(「俺」「自分」など)の私小説スタイルではなく、
<br />三人称(登場人物の心の中も描く「神の視点」)の小説となっていることから、
<br />語りうる世界が広がり、各人の心理描写が読みどころとなっています。
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<br />一方、一人称で書かれていたこれまでの場合では、
<br />主人公の幻想と現実が渾然一体となっていたところがおもしろかったのですが、
<br />今回の三人称の場合には、超常現象が個人の幻想ではなく現実として受け取られるため、
<br />小説というよりは、荒唐無稽な物語としての度数(SF度数)が高まっています。
<br />(その点は、村上春樹の「アフターダーク」と似ているかも?)
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<br />いつもの「俺」は、語り手としてはもとより、
<br />主人公の「掛」を中心とした登場人物に乗り移っているともいえますが、
<br />一人だけ「俺」度の低い(何を考えているのか分からない)登場人物が現れますので、
<br />お楽しみに。
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<br />ともあれ、詩や私小説だけではなく、物語までを武器として手に入れた
<br />町田康の今後(の破壊と創造)が期待されます。
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