騎手岡部幸雄が競馬場からいなくなって2年半ちょっと。ジョッキーの名騎乗にいつも魅了されてきた私にとって「岡部だったらどう乗るだろう…」とか「岡部だったらこうは乗らないだろう」とかつい考えてしまう私にとって1ページ1ページかみしめながら読んだ本です。
<br /> この『勝負勘』は基本的には"真摯に自分の出来うる努力を当たり前にこなし続けていくこと"ここに56歳まで鞭を置くことなくトップに君臨し続けた孤高の名手にしか見ることの出来ない風景があったのだと思います。
武豊が登場する前、日本を代表するトップジョッキーだった岡部さんだが、昨年引退してから、調教師にもならず、主に執筆活動や評論家活動をしながら悠々自適の毎日を過ごしているようだ。今回の著作では、彼の経験の回顧と、それを通じて体得した成功の要因について述べている。騎手が他のプロフェッショナルと大きく異なる点は、まずチャンスを得るのが大変だということ。まず調教師や馬主から信頼されないと騎乗機会が増えず、さらに勝つチャンスの大きいよい馬がまわってこない。鶏卵の関係だが、こうやって好循環を得た一握りの騎手となるための努力は並大抵のものではなかったはず。肝心の、実際のレースで勝つ秘訣であるが、岡部さんの言葉では、「他の騎手よりも多くミスをしないこと」とすごくシンプルである。武豊は、そのミスが少なく、かつ、他の騎手のミスを見逃さず、すかさずそれに乗じることができる点で圧倒的に強いのだという。そして、レースは刻々と状況が変わるので、その状況変化に合わせて対応できる柔軟性こそが自分のミスを減らし、他人のミスに乗じるための必要能力であり、それが「勝負勘」ということなのだろう。印象的だったのは、馬も騎手もある程度長い目で育成すべきという意見。早熟型ですぐ結果を出すことが尊ばれるようになっていることを憂い、晩成型がきちんと育ちにくくなっているが、そうした仕組みは競馬界に限らず、世の中全体として考えなければいけないことである。
小生は馬券で岡部を買ったことは少ない。それは倍率が低く、馬券妙味がなかったためである。ある意味その騎乗技術が世間から信頼されている騎手がどのように培ってきたのか、という自身の自分史と呼べる本と思われる。ちなみに、小生は本を購入してから、岡部元騎手の本であることを知った。『勝負勘』というタイトルに惹かれたからである。単なる競馬ファンが読むよりも、勝負事に身をおいている人間にとっては考え方や生き方で参考になる面が多いと思う。ちなみに、小生は投資という勝負事に携っている。