千年以上の歴史のある金剛組については、記載は少ないです。
<br />実際は、100年から200年くらいの企業のおはなしがほとんどです。
<br />どの企業も、常に順風満帆だったわけではなく、紆余曲折の末、個性的な経営者によって成功している、というエピソードで満ちていて、かなり面白く読めます。
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<br />ですが、
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<br />「なぜ何百年も存続できているのか」という組織論的な観点と、
<br />「伝統的な産業に携わる企業が、携帯電話やエコビジネスのような現代的な産業にどのように貢献しているのか」という議論と、
<br />「製造業(「ものづくり」)こそが日本の経済・社会の原点である」という著者の主張とが、
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<br />それぞれ中途半端に述べられている感が否めません。かえってどの議論も踏み込みが足りないです。
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<br />お気軽な読み物として、通勤時間などに楽しむのがよいと思います。
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読んでいて、「すごいなぁ」と何度もつぶやいてしまった。
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<br />老舗、と呼ばれる企業の中でも、本書は「製造業」にフォーカスしている。
<br />そういった企業に対して、読む前のイメージは「数百年の伝統の製法を守り続けて」といったようなものだった。
<br />だが、本書に出てくる企業にはそういった会社はむしろ少ない。
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<br />伝統は一応、引き継ぎつつも、常に新たなものを追い求めようとする姿勢を持っているのだ。
<br />その結果、「銅山会社がリサイクル請負を」「酒造会社がアトピー治療薬を」といった、一見突飛にも思える事業を起こし、成功を収めている。
<br />「守り続ける」だけでは、老舗として残り続けることはできないのだろう。
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<br />そういった意味で本書は、「老舗の研究」というよりも、純粋に「日本企業の強さの研究」として読めた。
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<br />「野村氏の文章って、こんなに軽い感じだっけ?」などと思いつつも、文章は非常に読みやすく、魅力的だ。
日本の老舗の存在はグローバリズムへの警鐘であり、未来への希望である。
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<br />強国の正論?には征服者の欲がちらつくが、老舗にはかけがえのないものを守り続けている誇りがあり、それは他者を否定しない。
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<br />生きとし生けるものへの敬意があればこそ、生かし生かされて来た老舗の存在は、企業生命とは何かの百年以上をかけた証明であろう。
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<br />「売り手よし、買い手よし、世間よし」「良品は声なくして人を呼ぶ」「不義にして富まず」「町人の正義」等々、老舗の家訓、理念はわかりやすくまっとうである。不正をくり返す現代の大企業にこそ、横文字でごまかすことなく、まっとうな姿勢で応えてもらいたいと思わせる。と同時に、自己中心的な私達の日々のありようの見苦しさも気づかせてくれる。
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<br />好感の持てる本書の登場人物達の中でも、とりわけ魅力的なのが二人の「宇宙人」だ。創造の病ともいうべき重大な危機を乗り越えた二人の言葉には、国際化の波の中でかじをとる老舗当主ならではの知恵があふれている。求められる新しい指導者像がそこにある。
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<br />1000年の単位で見れば、国の成立期に中国や朝鮮経由で受けた、ペルシャを源とするアジアの恩を、やっと今、日本が世界に返し始めている、ともいえるのではないか?
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<br />日本人はどう生き、どう働くべきか、人類が地球の今日を明日につなぐにはどうすれば良いのか、老舗は学びの宝庫である。
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<br />最後に、老舗の精神の伏流水として、自然界全てのものに神性を感じる日本古来のアニミズムがあり、一切の生きとし生けるものの共存を前提とする、日本教といってよい仏教感がある。それらは日本人共有の潜在意識ともいえる。
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<br />本書の老舗が信用できるように、私達は私達自身をもっと信じても良いのではないだろうか。