「空の名前」「宙の名前」を手にしてから
<br />シリーズが出るようになり、
<br />やっぱり気になったり、知りたくなってしまう。
<br />勉強は嫌いだけど、ずっとある素敵な存在には、
<br />どうしても血が騒ぎ知りたくなってしまいます。
<br />美しい写真と、知らなかったけど覚えたくなる名前。
<br />夕焼けや名の知らぬ花を見合わせながら調べても楽し。
<br />自然の色にはかなわない。
以前は「色々な色」というタイトルで発売されていた本です。表紙も違う写真が用いられていました。恐らく「空の名前」「宙の名前」などに合わせて改題されたのだと思います。<br> 余談はさておき、まずは写真を眺めてみるだけでも楽しいと思います。本文を読むのはその後、心惹かれる「色」を見つけた時に。その色に関連した色名なども数多く取り上げられていて、日本古来の色名から、西洋の言い回しまで幅広く網羅されています。<br> 文学作品の中で、その色の名が用いられた一節なども解説に織り込まれており、興味を惹かれたらその作品を読んでみるのも一興です。<br> 巻末の「色彩索引」では色見本がずらりと並んでいるので、目で見て捜すこともできるし、「あの作品でこんな色の名前が出てきたんだけど、どんな色なんだろう」という時には「色名索引」を使って捜すこともできます。<br> 読み物としては驚くほどの充実ぶりです。専門的で、詳細な知識を要するような方にも、事典とはまた別に買って頂いても良いと思います。
萌黄色(もえぎいろ)、浅葱色(あさぎいろ)、亜麻色(あまいろ)、鈍色(にびいろ)、猩々緋(しょうじょうひ)…。どこかでかつて耳にしたことがあるはずなのに、今やどこかに置き忘れてきてしまったかのように遠く懐かしい色の名前たち。そんな様々な種類の色名について、具体的にどんな色なのかを表示し、そして色名のもととなった自然界の事物を撮影した写真、さらにはその色名が織り込まれた古今東西の文学作品の一節までもを併せて編集した<色の図鑑>ともいえる一冊です。<p> 色の名前というのはごくわずかの例をのぞいて、色固有の名前ではなく、動植物や鉱物資源、水や火といった自然界に存在するものが身にまとう色から名前を借り受けたものです。そこには人間が自然界から色名を押し戴いていた姿が目に浮かびます。ですから私は、自然と人間との関係が緊密で穏やかだった時代の名残のようなものを、色名の豊かさの中に見るのです。<p> 殊に、鴇色(ときいろ)が今や絶滅状態にあるその野鳥の飛ぶときに見せる風切羽の色にちなんだものであり、さらには女性の和服によく用いられる色であったという説明を目にすると、私たち日本人が失ってしまったものの大きさに思いが至ります。<p> さらに指摘しておきたいのは、おのおのの色の間の微妙な差異を表現したこのような図鑑的書籍を作ることが出来たのも、日本の印刷技術の高さがあったればこそだという点です。15年ほど前にニューヨークで様々な写真集を買い込んで帰ったことがありますが、アメリカの出版社から出されたそれらの書籍すべてにprinted in Japanと書かれていて驚いた覚えがあります。世界が認めるその技術力を日本人はもっと誇ってよいと思います。<p> 日本ならではの感性と技術。これは日本人が持てるものをたっぷりと注ぎ込んだ末に編み上げた本だという思いを強くしました。