先の大戦では、帝国海軍はよく戦ったが米国の圧倒的な物量のために負けたんだと思っていましたけど、この本を読んでそれは間違いだと認識しました。<br>海軍は南の島々に陸軍部隊を送り込んでおきながら、物資を補給する船団の護衛の事など全く考えてなかったんですね。<br>連合艦隊は起こるわけの無い日本海海戦型の「艦隊決戦」のみを夢見て艦隊の保全に勤めて、船団護衛に艦艇を割くことをしぶってたとは。<br>海軍は米国を仮想敵国にして装備を整えていたくせに、米国との戦い方を全く研究していなかった。<br>米国を仮想敵国にすることで予算を分捕る口実にしていたんですね。<br>海軍は本気で米国と戦争する気なんてなかったということですか。<br>米国との戦争になれば太平洋の島々の取り合いになることは予想されたはずなのに、「艦隊決戦」のみに固執し、その島々で戦う陸軍部隊に対する補給の研究など全くなされていなかったとは。<br>「艦隊決戦」が最優先で「船団護衛」が二の次三の次だったなんて。<br>艦隊は食料を積んで作戦行動をとるからいいようなものの、太平洋の島に陸揚げされた陸軍は補給がないと戦えないのに。<br>よく「陸軍の暴走で・・・」などと言われますが、私には「海軍の無能」が敗戦を招いたように思いました。
「日本は補給戦で戦争に負けた」と言う言い方は、戦後ずっと言い続けられてきたように思う。この言い方の中には、それを戦後になって初めて気付いたかであるような責任回避のニュアンスが漂っている。しかし、戦前から海上輸送の重要性を認識している人たちはいたし、開戦後は実際に多くの輸送船が沈められていくのである。海外から資源を輸入し、戦地に兵員や物資を運ばなければ戦争の遂行は不可能なはずで、そのためには海上輸送の安全を図る海上護衛と言うものを最重要視しなければならなかったのだが、実際には、この当然の事をなかなか理解出来ず、時機を逸した頃になるまで何も手を打たなかったのが、日本的官僚機構の頂点とも言うべき旧海軍だったのである。ただし、これを過去の事、海軍の事としてのみ捉えるべきではない。現に今でも当時と同じように、最重要視すべきことを見極められず、手遅れになりつつある事態が発生しているかもしれないからである。著者は元海上護衛総司令部参謀であるので、海上護衛という面から見た敗戦の過程を本書によって克明に知る事が出来る。軍事的専門知識がなくても十分理解可能な内容なので、より多くの日本人に読んで欲しいと思う次第である。
本書から読み取れる教訓の一つに、「我国が高度に工業化された山がちな島国であり、それでいて天然資源に乏しい国土しかもたず、海外物資に依存するしかないということを忘れるべからず」というものがある。物流は一般の目に触れないため、我々はこの一事を忘れがちである。しかし、先の海賊騒動で再確認されたが、現在でも我国は、あくまで海外より入ってくる物資に支えられており、しかもその大半(重量ベース)を海運に依存している。インド洋・太平洋において、我国のライバルである中国が海洋進出を盛んに行っているいま、我々はこの我国の置かれている地理的・経済的状況を思い起こすべきではなかろうか。この本は、そのための第一歩に資するものである思う。