あの難しいスピノザを、本書はとてもわかりやすく解説してくれています。正直、ちょっとわかりやすすぎるのでは、という心配もありますが。
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<br />肯定の哲学といえばニーチェが思い出されますし、本書でも言及されていますが、私はむしろドストエフスキーと比較してみたい。これまで見慣れていた風景が、こちらの態度が変わることによって一変してしまう。本当にそんなことがあり得るのか? 「悪霊」のキリーロフは、これを「永久調和の瞬間」と呼んでいます。一瞬が永遠になる瞬間。存在する、というそのことが、そのままで肯定され、満ち足りる瞬間。
<br />パウロは「天国へ行きたかったら神を愛せ」と教えましたが、イエスはむしろ「ここが天国だ、君たちが神に愛されていることを知れ」と励ましています。スピノザやドストエフスキーは、このイエスの教えを自分の言葉で語ろうとした、ということでしょうか?
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<br />人間など存在していようがいまいが、三角形の内角の和は2直角である。スピノザはこれを神と呼ぶのですから、ニーチェがどんなにレトリックを駆使しようと、スピノザの神を殺すことはできない。でも、こんなことはニーチェは承知の上だ、と理解したい。実際、ニーチェはいろいろに読めますから、そんなふうにも読める。「神は死んだ。我々が<殺した>のだ」。神は存在するが、我々が実存的に生きるために、神を殺す。これに賛同するかどうかは、人それぞれでしょうが。ニーチェは神の死を確認しただけだ、などというのは、ニーチェの一番つまらない読み方かもしれない。ーーそうなると、ニーチェは哲学書として読むべきではないのか? スピノザは哲学ですが、ニーチェはもう哲学ではない、あるいは、ニーチェ以降、哲学は死んだ? このニーチェは余計でしたが、「スピノザの世界」はいい本です。
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上野さん、何だかほほえましいんです。おちゃめなんです。本当にスピノザを愛していて、一般の方々にもスピノザをわかってほしいんだなあ、と思います。愛情が伝わってきます。スピノザ哲学の正統な解釈が、平易に、しかも密に詰まってる、丁寧に作られた本著。スピノザのスの字も読んだ事ない、でも神にはちょっと興味あるなあ、という人はぜひぜひ読んでください。今までの神の概念が覆されること必須。砂を噛むような理論に最初は辟易するかもしれませんが、きっと心をわしづかみにしてその瞬間に全てがわかるようなフレーズがありますよ。
スピノザの入門書としてこれから定番になると思われる本です。<br>スピノザの著書である『知性改善論』,『エチカ』,『国家論』などから引用をしつつ、<br>著者がそこからどのようなことが言えるのかと示してくれます。<br>この本が最良の入門書だと思われるのはこの本を読むとスピノザの書いた本を読みたくなるからです。<br>入門書のなかには著者の意見でおなかがいっぱいになるものや<br>明らかにこちらの知的レベルをなめきった本もあると思います。<br>しかしこの本にはそんなものは一切なくスピノザのスタイルに乗っ取って書かれてるおかげで<br>この本を読んでいればそのままスピノザの本に迎えると思います。