この本には、随所に、本文で述べている概念をあらわす「図」が出くる。
<br />あるページに、「欲望」を大きなものに育てていくと、「愛」に昇華されるということが書いてあって、(それは、「悟る」とはこういうことではないのか。と僕は思うのだが)その概念の「図」が出ているが、この「図」がすごい。このシンプルな「図」を見るとまさに、この矛盾に思える『「欲望」が「愛」に昇華される』とはこういうことだということが、ストンと、腑に落ちる。
<br />はかにも、目からウロコが落ちる「図」がたくさん出てくる。反面、なかには、ちょっと強引ではないのかと思われる「図」もある。単純化し過ぎじゃないかと思えるような「図」もある。しかし、それらの「図」についても、物事の本質はこうなんではないか、と考えさせる糸口になっている。
<br />この本の中で提示されている難しい概念も、これらの「図」のために、禅問答のような分かりにくさは無い。もっとも、文章自体も非常にわかりやすい。しかし、奥は深い。
<br />そして、この本のもう一つの売りは、それらの「図」のほかに、豊富な「引用文」である。作者は自分の論証強化のために、「引用文」をうまく使っている。「引用文」も「哲学者の言葉」や、「名言集」、のようなものばかりでなく、「詩」や「小説」から「童話」まで幅広い。これらのバラエティに富んだ「引用文」も、この本を読みやすくしているし、具体的実証性を高めている。
<br />最後に、この本を価値のあるものにしているのは、作者が、セラピストとして具体的に経験してきている事実と、日本を離れて日本を見直した、しっかりした視点が根本にあるからである。
日々の暮らしの中で何かしらの違和感を抱えたまま生きている人は多くいると思います。勿論、自分とは異なる多くの人が集まる社会に身をおいて生きている以上、全て自分の思い通りに行くなんてことはありませんが、そうした意味においてではなく、周囲とも折り合いをうまくつけ、何の過不足もなく表面上は幸せこの上ないような暮らしを送っていても打ち消せない「違和感」に多くの人は多かれ少なかれ苛まれているのではないでしょうか。
<br /> ポルトガルの詩人、フェルナンド・ペソアは言います。「世界はなにも感じない連中のものだ。実践的な人間であるための本質的条件は感受性の欠如であり、生き抜いていくための重要な長所は、行動を導くもの、つまり意志だ。行動を妨げるものが二つある。感受性と分析的思考だ。そして分析的思考とは結局のところ感受性を備えた思考に他ならない。」(沢田直 訳「不穏の書」より)
<br /> 感受性を備えた思考、もしくは意識に立ち現れる前のそうした思考の萌芽が「普通」と「飼いならされた個性」を求める世間での行き辛さを感じさせるのかもしれません。本書は、そんな違和感を覚えている全ての人に読んでもらいたい本です。本来の自分とは何かを見つめ直すきっかけやヒントが散りばめられています。全てを盲信(頭だけで理解し依存)するのではなく、自分の心と身体に耳を澄まし、自分の力で「感受性を備えた思考」を行うためのガイドとして格好の本だと思います。また先人の様々な珠玉の言葉が引用されており、思考の端緒を得るためのブックガイドとしても最適です。
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<br />著者は、自らの「経験」と思索による“こころ”についての理解を、分かりやすく説明してくれる。それは断定的なもの言いでもあるので、そこが、読んでいて馴染まない人もいるかもしれない。私はそのへんは気にならず、一気に読んだ。面白かった。
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<br />巷にあまたある“自分探し”本が好きな人、人生の指針とすべきマニュアル本が好きな人は、読まない方が良い。また、この本がマニュアル本として読まれ、金科玉条のように指針とされることは、著者自身、望んではいないであろう。そのようには書かれていないし、マニュアル本となった時点でそれは「死んだもの」と化すからである(『はじめに』には、「今後いつでも訂正されたりバージョンアップされていく可能性のあるもの」とある)。
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<br />(今の苦しさについて)自分で色々考えてみたが、どうも行き詰まっている・・・という人にとっては、この本はとても良い刺激になると思う(あくまで“自分で色々考える人”という条件付きだが)。そういう人たちは、下手なカウンセリングに通い続けるよりも、この本1冊読んだ方がずっと安上がりかも。
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<br />数年前に、本書にあるようなお話を著者のセミナーで聞く機会があった。
<br />最近、D.W.ウィニコットを集中的に読んだが、その間ずっと著者の話を連想していた。著者の口から「ウィニコット」という言葉を1度も聞いたことはないが、何か二人に共通する印象を持った。
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<br />個人的には、著者によるイメージ図が秀逸。日頃の仕事でも使わせてもらっている。
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<br />残念なのは、タイトルがパッとしないこと。中身は濃いのに・・・。
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